内科学 第10版 「ばち指」の解説
ばち指(ばち指・チアノーゼ)
ばち指とは,手指や足趾末節の結合組織の増殖による無痛性腫大と爪の変形であり(図2-25-1),爪床の軟部組織に海綿状組織が形成されたものである.先天性心疾患,慢性肺疾患,消化器疾患などにときに出現する症候である.明らかに太鼓のばち状に著しく腫大したものは診断は容易であるが,軽度なものの診断のポイントは示指を側面から観察した以下の2点があげられる(図2-25-2).①爪甲基部の厚み(distal phalangeal depth:DPD)と遠位指節間関節部の厚み(interphalangeal depth:IPD)の比が1以上の場合.②爪と爪甲基部に続く指背面のなす角度(爪郭角)が180度以上になる場合(正常は160度をこえない).
遺伝性のものもあるが,一般的には後天性であり,表2-25-1にみられるように心疾患,肺疾患,消化器疾患などいろいろな疾患に合併し,また甲状腺(Basedow病:thyroid acropachy)や副甲状腺などの内分泌疾患にも合併することがある.ときに,ばち指が片方の手指だけに限局したり,動脈管開存症ではばち指が足趾だけに出現することがあるが,一般的には手指,足趾に両側性,対称性に発症する.
病態生理
ばち指の発症機序は不明であるが,いくつかの仮説がある.①組織低酸素説:チアノーゼ性先天性心疾患によるばち指の原因として考えられているが,そのメカニズムは不明である.②指尖の血管拡張説:動静脈吻合の形成や液性因子(プロスタグランジンやNO(一酸化窒素)など)による.その結果として末梢循環血液量の増大により,間質の浮腫をもたらす.③神経-肺-体循環系反射説:ばち指が迷走神経支配の臓器の疾患に発症しやすいことに基づく.④遺伝素因説などの諸種仮説がある.
鑑別診断
原因疾患は多様である(表2-25-1)が,多くの場合原疾患のほかの症状がばち指の出現に先行するため,原疾患の症状や所見から鑑別診断は容易である.しかし,肝硬変,肺癌,胸膜中皮腫・肺動静脈瘻などは,ばち指の存在が原疾患を発見するきっかけとなることがある.[重政千秋]
■文献
Braunwald E: Examination of the patient. In: Heart Disease (Braunwald E ed), pp6-7, WB Saunders, Philadelphia, 1988.
Fishman AP: Approach to the patient with respiratory symptoms: cyanosis and clubbing. In: Fishman's Pulmonary Diseases and Disorders, 3rd ed (Fishman AP, et al eds),
pp382-383, WB Saunders, Philadelphia, 1998.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報