内科学 第10版 「肺動静脈瘻」の解説
肺動静脈瘻(肺循環障害の臨床)
定義・概念
肺動脈と肺静脈との異常短絡をきたす血管奇形. 肺病変のみを呈する場合と,Rendu-Osler-Weber病(遺伝性出血性毛細血管拡張症)の一部分症として出現する場合がある.
分類
病理所見から動静脈瘤型と多発性毛細血管拡張型に分類する.胸部画像上の分類として,単発型と多発型に分類する.
原因・病因
中胚葉性血管形成不全.
疫学
欧米では,肺動静脈瘻は,Rendu-Osler-Weber病と合併する,あるいは,その一部分症であることが多い(40〜70%).そのため,家族内発生もみられている(8%).一方,日本においては,Rendu-Osler-Weber病との合併は欧米ほど多くはないが(12〜18%),詳細は不明である.
病理
多発性毛細血管拡張型は,毛細血管に近い末梢の動静脈間にできる微小の動静脈瘻である.発生段階で動脈と静脈が吻合して動静脈結合ができ,血管隔壁が形成されて毛細血管となるのが正常な発生過程である.その途中で,血管隔壁の発生が十分に生じないと,毛細血管形成不全が起こる.
動静脈瘤型の大部分は胸膜直下に存在しており,毛細血管領域で吻合している.組織学的には,動脈壁は菲薄化しており,筋線維や弾性線維組織は脆弱化している.動脈と静脈との区別は困難であるが,静脈としての組織構造は保たれていることが多い.毛細血管領域の血管壁への圧力は,肺動脈からの流入血流量と動静脈血管抵抗の差により規定されている.この血管壁への圧が長期間かかることにより,動静脈瘤型となり,胸部X線上の腫瘤影が出現する.
病態生理
正常な場合,全身から心臓に戻ってきた血液は肺動脈に流れ込む.肺の毛細血管はフィルターの役割をしており,たとえば血栓・塞栓などは肺毛細血管にひっかかり,自然溶解してしまう場合がほとんどである.しかし,このフィルターの役目をする毛細血管がないと,血栓・塞栓が肺を通過して脳動脈に飛んでしまう危険性がある.
臨床症状
健康診断時の胸部X線上の異常陰影として発見される場合が多い.10%は小児期に発見されるが,多くは20〜40歳代に胸部X線上の異常陰影として発見される.肺動静脈シャント率が高い場合には,静脈血が酸素化されないため,低酸素血症,チアノーゼ,労作時呼吸困難などを呈することがある.
検査成績
99mTc肺血流シンチ:正常な場合は,肺以外の臓器が描出されることはないが,肺動静脈瘻では99mTc-MAAが肺を通り抜け,腎臓・甲状腺・頭部などが描出される.右心と左心の間に短絡がある疾患では,同じように他臓器の描出がみられる.
診断
胸部単純X線(楕円形の,辺縁が平滑な分葉化した結節影)および胸部造影CT(腫瘤そのものおよび流入・流出する腫瘤に連続する屈曲・蛇行した血管影が造影される)(図7-10-10)にて,診断はほぼ確定する.さらに三次元立体画像を作成すると,その形態の視覚的把握がしやすい(図7-10-11).
動静脈瘤型における胸部画像上の典型像は,円形/楕円形の,辺縁が平滑(明瞭)な分葉化した結節影である.これに流入あるいは流出する血管を示す帯状の陰影が一緒に認められれば,かなり疑わしい.また,中下肺野にみられることが多い.多発性毛細血管拡張型における胸部単純X線写真では,微細顆粒状の肺炎様陰影を呈することがある.
鑑別診断
胸部X線にて結節影を形成する疾患(肺腫瘍も含む).
合併症
肺合併症として,破裂による喀血・血胸を起こすことがある.右左シャントのため,血栓・細菌が左心系に飛び,全身の動脈系に血栓・感染症を起こす可能性がある(奇異性塞栓症,paradoxical embolism).その一部の脳合併症として,脳塞栓症,脳膿瘍,一過性脳虚血発作が起こることがある.
経過・予後
非手術例の経過観察にて,合併症の発生率が高く,また死亡する症例もあることが判明しているので,積極的治療を考慮する.無症状な場合でも治療をした方がよい場合もある.特に,動静脈瘻の大きさが2 cm以上,あるいは流入肺動脈の直径が3 mmをこえるときには積極的治療をすべき,と考えられている.
治療
治療としては,専門医が行うべき経カテーテル塞栓術と,外科医が行う外科的切除法がある. かつては外科的な肺葉摘除術が標準治療法であったが,低侵襲であり,また肺機能温存が可能な,経カテーテル的流入血管コイル塞栓術が現在では主流になってきている.流入動静脈がそれぞれ1本である型(simple type)と,2本以上の流入動脈がある型(complex type)があるので,治療上特に経カテーテル的流入血管塞栓術を試みるときは,事前の造影CTもしくは血管造影で形態をよく確認する必要がある.経カテーテル的流入血管コイル塞栓術では流入血管を動静脈瘻のできるだけ直前で塞栓することになるが,塞栓物質として離脱式バルーン,金属コイルの2種類がある.日本では離脱式バルーンは入手困難のため使用せず,金属コイルを使用している.経カテーテル的流入血管コイル塞栓術の合併症として塞栓物質の体循環系への逸脱が1~2%あるとの報告があり,これを防ぐため最近では各種の離脱式(デタッチャブル)コイルを使用することが多い.[巽 浩一郎]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報