日本大百科全書(ニッポニカ) 「カエルアンコウ」の意味・わかりやすい解説
カエルアンコウ
かえるあんこう / 蛙鮟鱇
frog fish
硬骨魚綱アンコウ目カエルアンコウ科Antennariidaeの総称、またはそのなかの代表種名。2006年(平成18)までカエルアンコウ科の魚類はアンコウ目イザリウオ科に分類されていたが、差別的語を含むため、日本魚類学会が2007年1月に現在の標準和名に改名した。
カエルアンコウ科の魚類は世界中の熱帯から温帯にかけて分布し、水深300メートル以浅の海底の岩礁域に40種余りが知られている。汽水あるいは淡水域にすむ種、あるいは浮遊する海草につかまって外洋を移動できる種もいる。日本ではおもに中部以南の沿岸域に15種ほどが生息する。外観がヒキガエルを連想させるので、カエルボッカ、バクトオボウなどとよぶ地方がある。小形の魚で、大きいものでも全長36センチメートルで、普通それ以下であり、3センチメートルほどのものもいる。体はやや側扁(そくへん)するが、腹を膨らませると球形になる。体表には無数の微細な突起が散在して粗雑であり、多彩な体色とともに擬態性がある。胸びれと腹びれはじょうぶで体を支え、必要に応じてこれを使って海底を歩くように移動する。背びれの第1棘(きょく)はほかのものと遊離して先端部が多毛類、端脚類、小魚などに似た形態でルアーの役割を果たす。これを動かして小動物をおびき寄せ、餌物(えもの)が口元に接近したとき、すばやく飲み込むように食べる。外敵を脅かすために、空気や水を胃の中に吸い込み、腹部を大きく膨らませる習性がある。
日本近海に生息するカエルアンコウ類のうち、もっとも代表的な種はカエルアンコウAntennarius striatusである。北海道南部以南、東太平洋を除く世界の温帯・熱帯域に広く分布し、体長16センチメートルほどになる。体の地色は黄褐色で黒褐色の斑紋(はんもん)が散在する。全長5センチメートル前後の幼魚は潮だまりにもみられる。日本の沿岸に分布するカエルアンコウ類は、秋から冬に主として底引網に入るが、量的に少ない。姿が奇異なので、水族館で飼育され人気がある。
[落合 明・尼岡邦夫]