多毛類(読み)タモウルイ

デジタル大辞泉 「多毛類」の意味・読み・例文・類語

たもう‐るい【多毛類】

多毛綱環形動物総称。体は細長く、頭部には触手眼点があり、胴には剛毛をもった多数のいぼ足がある。多く海産。天然飼料として重要。ゴカイケヤリムシなど。

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精選版 日本国語大辞典 「多毛類」の意味・読み・例文・類語

たもう‐るい【多毛類】

  1. 〘 名詞 〙 環形動物門のなかで最も大きな一綱。少数の淡水産以外は海産。生活様式が多様で、それに応じて体形もさまざまに変形している。体は多くの体節からなり、各体節の両側には疣足(いぼあし)があって、それぞれに剛毛をもつ。頭部には眼点、触手、感触器などがあり、口から吻を体外へだしてするどい顎で餌をつかまえるものもある。砂泥中に棲息するもの、一生の間遊泳するもの、岩の上などに石灰質のかたい管をつくってその中にすむものなどがある。大部分雌雄異体で、いくつかの種類は生殖時期に体が変形して群遊する。ゴカイ・イワムシアカムシエラコなどは釣りの餌に利用される。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「多毛類」の意味・わかりやすい解説

多毛類
たもうるい

環形動物門の1綱Polychaetaを構成する動物群。環形動物のなかでもっとも大きい基本群である。多毛類の一部が淡水中や陸上にあがって貧毛類(ミミズ)となり、貧毛類のうち、あるものが34体節をもったヒル類になったと考えられている。

 多毛類の体は多くの体節に分かれ、おのおのの節にはいぼ足があり、これに数本から数十本の剛毛が生えているところからこの名がある。多毛類は大部分が海産で、石の下、海藻の根元、砂や泥の中に管をつくってその中で生活するもの、また一生プランクトンとして海中を漂っているものなど生活様式は多様である。大部分の種類は体長が2~20センチメートルであるが、小形のものでは5ミリメートルぐらい、大きなものではイソメ科の1メートル以上に達するものもある。現在、世界では約6000種、日本では約800種が知られている。

[今島 実]

形態

頭部には感触手、副感触手、目があるが種類によって形も異なり、またその機能にも著しい差異がみられる。頭部から胴部が続き、体の末端までほぼ同じ形の体節が連続しているものと、胴が胸部と腹部の二つに分かれ、それぞれ異なった形の体節からなっているものがある。前者を遊在類、後者を定在類と区別しており、定在類の大部分は管をつくってその中で生活している。いぼ足の形も種類によってさまざまであるが、いずれもキチン質の剛毛束をもち、これをいぼ足から出したり引っ込めたりして移動する際に役だてる。また、ある種類では、いぼ足にえらがあって酸素や二酸化炭素の交換を助けているが、えらをもたないいぼ足では、毛細血管網の目のように張り巡らされている。背行血管から側血管に移った血液は体壁やいぼ足の毛細血管を通るときに酸素を取り入れ腹行血管に入る。血液は背行血管では前方に、腹行血管では後方に流れる。血液にはヘモグロビンが含まれているので赤い色をしているが、種類によってはクロロクルオリンを含んで緑色をしているものもある。

[今島 実]

生理・生態

消化管は口、咽頭(いんとう)、食道、腸、肛門(こうもん)と体の真ん中を縦に通っている。口の構造と頭部の付属器官によって食物の種類が違っていて、肉食のもの、泥を食べてその中の有機物を消化吸収するもの、プランクトンをとらえるものなどがあり、ゴカイやイソメの類では大きな鎌(かま)形の歯があって、これで食物を挟んでまる飲みにする。ウロコムシ類では共生するものが多く、カイメン、ウニ、ヒトデの体表で生活している。発光する種類があり、ツバサゴカイや浮遊性のオヨギゴカイはよく知られた例であるが、最近シリス科のOdontosyllis属の種類が富山湾魚津(うおづ)の海岸で発光することが報告された。

[今島 実]

生殖

一般に雌雄異体であるが、外形的な差はほとんどみられない。しかし、ゴカイやイソメの類は生殖の時期になると体形が変化して水中を泳ぐのに都合のよい生殖型になり、雌と雄がそれぞれ泳ぎながら卵あるいは精子を放出し、受精が行われる。バチとかパロロというのはこの生殖型をいう。また、クロムシやギボシイソメのように、ゼラチン質の袋の中に卵を保護して砂泥上や海藻に産み付けるものもある。一方、体から新しい個体を生じ、やがては親から離れていく無性生殖も行われる。

[今島 実]

利用

多毛類のうちのゴカイ類、イソメ類など約20種類ほどは、魚の釣り餌(え)として古くから利用されている。近年、釣り人口の急増のため、韓国、中国、フィリピンなどから輸入するほか、高知県や愛媛県ではイソゴカイの養殖が盛んに行われている。

[今島 実]


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改訂新版 世界大百科事典 「多毛類」の意味・わかりやすい解説

多毛類 (たもうるい)
Polychaeta

環形動物門の1綱で,環形動物中,もっとも種類が多い。いわゆるゴカイエラコイワムシなどの仲間である。ほとんどが海産で,ごく少数のものが淡水にもすんでいる。潮間帯から約1万mの深海底まで分布し,砂れきや泥中で自由生活するもの,自身で管をつくってその中にすむもの,または一生の間浮遊生活するものなど多様な生態をもっている。現在,世界で約8000種,日本では60科,850種以上がすんでいる。

 体は一般に細長くて多くの体節からなっており,各体節ごとに内部もしきられている。外部形態はさまざまに分化していて,頭部の前口葉には感触手,目や副感触手などがあるが,科によっては,これらの付属物をもたぬものもある。またカンザシゴカイ科やケヤリ科では鰓冠(さいかん)をつくり,カンザシゴカイ科ではその中の1本が殻蓋に変形して棲管(せいかん)の入口をふさぐようになっている。前口葉に続く囲口節,すなわち第1体節は,その腹側が下唇になっていて,一般に2~4対の感触糸があり,いぼ足をもっていない。カンザシゴカイ科のものでは,えり状の部分があって,そこから石灰質を分泌して管をつくっていく。胴部では,ほぼ同じ形の体節が一様に並んでいる場合と,胸と腹の2部分に区別されているものとがある。各体節の両側には,種特有な形のいぼ足があって,科によっては背触糸が櫛(くし)の歯のようなえらや各種のうろこに変形している。いぼ足には,それぞれ特有の剛毛があって,分類上の重要な特徴になっている。

 体内には広い体腔があり,その中央を消化管が直走している。口から咽頭(いんとう)までの部分の吻(ふん)を口から反転させて餌をとらえて口へ引き入れる。吻の内面には,指状突起物や歯が並んでいて,種類によっていろいろな特徴がある。閉鎖血管系で,背行血管と腹行血管が体の全長をとおり,その両血管を側行血管が連絡している。しかし,なかには血管をもたない種類もある。

 一般には雌雄異体であるが,雌雄の形態の差はほとんど見られない。しかし,ゴカイ科やシリス科では生殖時期になると頭部やいぼ足の形がかなり変化して雌雄がはっきり区別される。生殖には有性生殖と無性生殖の二通りがある。産卵の方法にはいろいろあるが,夜間に多くの雌雄個体が水面を群泳しながら生殖を行う場合に,ゴカイ科のイトメの生殖型個体をとくにバチ,または日本パロロと呼んでいる。受精卵は繊毛をもったこまのような形のトロコフォア幼生になって,しばらくの間浮遊生活し,その後海底に沈んで変態する。無性的な生殖には,体の一体節が頭部に変化し,その部分から離れていくとか,一つの体節に10個体内外の子虫が生じ,やがてそれらが離れていくものも知られている。

 多毛類は魚類などの天然飼料になっていて,生態系の中で重要な役割を担っている。カレイ類の胃中を調べると70~80%が多毛類で占められている。イソゴカイ,イワムシ,クロムシなどは,釣りの餌によく使用され,アオゴカイ,イワムシなどは韓国,フィリピン,台湾などから生きたまま相当の量が輸入されている。近年,日本でイソゴカイの養殖が始まり,高知県や香川県では大規模に行われている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「多毛類」の意味・わかりやすい解説

多毛類
たもうるい
Polychaeta

環形動物門多毛綱に属する動物の総称。体は一般に細長く,一様な多くの体節に分れる。頭部 (口前葉) には感触手,副感触手や眼点などがよく発達し,ときには副感触手が分枝して鰓冠になっているものもある。吻があるものはこれを反転飜出して餌を捕え,食道へ引入れる。各体節の左右両側には疣足 (いぼあし) があり,通常2~3種類の剛毛を含む剛毛束をもつ。疣足に櫛歯状の鰓をもつものもある。血管は閉鎖血管系で,背行血管と腹行血管とが明瞭で,血液の流れがよく見え,また疣足には毛細血管が発達している。普通雌雄異体で,産卵は,卵を直接水中に放出するもの,卵を寒天質で包んで親の体や他物に付着させるものなどいろいろある。ゴカイ科,イソメ科,シリス科などのものでは,産卵するときに親の体形が変って多くの雌雄が生殖群泳をしながら生殖を行うものがある (イトメの生殖型個体はバチ,または日本パロロと呼ばれている) 。一方,カラクサシリスのように無性的に体側から出芽して,体全体が網の目のようになるものもある。ほとんどが海産で,淡水産のものはごくわずかである。海岸の砂泥中,転石下,岩礁に付着するものから水深1万mの深海にすむものまであり,一部のものは終生浮遊生活をしたり他の動物と共生したりする。日本には現在 600種ほどが知られている。

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