翻訳|pineapple
パイナップル科(APG分類:パイナップル科)の常緑多年草。果実の形が松かさに似ており、味はリンゴに似ているのでパインpineアップルappleと名づけられた。原産地はブラジルで、熱帯アメリカでは古くから広い地域に栽培されていた。コロンブスの第二次探検隊(1493)によって、西インド諸島のグアドループ島で発見されてから他の大陸の諸方にも急速に伝わった。15世紀末にはスペイン人により東洋へ、1508年にはポルトガル人によってインドに伝えられた。16世紀の末までには世界の熱帯諸地方に伝わった。日本へは1845年(弘化2)オランダ船によってもたらされた。
植物体は高さ0.5~1.2メートル、葉は短幹に密生し、長さ0.6~1.5メートル、幅5~7センチメートル、葉肉は厚く繊維質に富み、表面は灰緑褐色、裏面は白粉を帯び、葉縁に鋸歯(きょし)のあるものとないものとがある。花は短幹の頂部に抜き出た花穂にまり状につき、螺旋(らせん)状に配列され、暗褐紅色の包葉をもち、内・外各3枚の花被(かひ)が集まって筒形となり、その基部は白色、先端は淡紫色である。集合果は長さ15~30センチメートル、径10~17センチメートルで変異が大きい。果形は円筒、円錐(えんすい)、卵形などがあり、熟すと橙黄(とうこう)、黄色などとなり、芳香がある。食用部は花托(かたく)、子房、包葉基部と花軸が融合してできたもので、果肉状を呈し、黄白色から橙(だいだい)色まであって、水気が多い。種子は長さ5ミリメートル、幅2ミリメートルくらいである。熱帯の諸方に多くの品種があり、葉縁に刺(とげ)のある系統とない系統とがある。前者には西インド諸島に多いレッド・スパニッシュred spanish、インドネシアやマレー半島に多いイエロー・モーリシャスyellow mauritiusがあり、ともに甘味に富む生食用品種である。後者には、南アメリカのフランス領ギアナの首都カイエンヌで有刺の品種から突然変異によってできたスムーズ・カイエンsmooth cayenneがある。これが1819年ヨーロッパに送られ、その後イギリスのキュー王立植物園で増殖され、世界に広まり、ハワイ、台湾などで加工用主品種となった。また、オーストラリア、南アフリカ、西インド諸島などの主加工用品種クイーンqueenも刺がない。なお、変種に白斑(はくはん)、黄金斑(こがねふ)、三色斑など斑入りのものがあり、これらは観葉植物として利用される。
栽培適地は年平均気温20℃以上で年降水量1300ミリメートル内外の熱帯の平地から海抜800メートルくらいまでの排水のよい肥沃(ひよく)な砂壌土である。繁殖は裔芽(えいが)(花柄上の小葉の葉腋(ようえき)から出る芽)、吸芽(きゅうが)(茎の葉腋から出る芽)、冠芽(かんが)(果実の頂端から出る芽)を主とし、塊茎芽(地下部から出る芽)も急場には用いる。普通は1列植えまたは2~3列の抱き畝(うね)とし、1ヘクタール当り、大形果を目的とする場合1万5000株、小形果では3万6000株を目安とする。植え付けは年中いつでもよいが、雨期が望ましい。施肥は年間1本当り窒素4グラム、リン酸1グラム、カリ5グラムを2~3回に分けて施す。植え付け後15~18か月で収穫が始まる。自然下の主収穫期は、たとえば沖縄では7~9月と11月から翌年の2月である。1年を通した生産面の労働力の分配や工場操業の平準化を図り、カーバイド、エスレル、α(アルファ)-ナフタレン酢酸などの処理によって計画的に花芽形成を促し、収穫期調節を行っている。収量は1ヘクタール1作で30~60トン程度である。2016年の世界の総生産量は2581万トンで、主産地はコスタリカ、ブラジル、フィリピン、インド、タイなどである。日本では沖縄が主産地で、収穫量は7770トン(2016)である。
[飯塚宗夫 2019年6月18日]
果実は芳香があり、多汁でさわやかな酸味と甘味に富み、生果肉100グラム中、全糖分として10~15%、クエン酸やリンゴ酸など酸類を0.8~1.2%含む。またアミノ酸窒素22~35ミリグラム、カルシウム17ミリグラム、カリウム100ミリグラム内外を含み、ビタミンではCを5~14ミリグラムのほかカロチンやBも含んでいる。これらの含量は成熟期による季節的変動が大きい。冬の果実は夏の果実に比べ、糖やアミノ酸窒素は低く、酸度、灰分やビタミンCは高い。果汁中にはタンパク質分解酵素ブロメリンbromelinを含み、肉類の消化を助ける。未熟果や追熟不十分の果実には多量の酸のほかシュウ酸石灰などを含むため、食べすぎると口内は荒れ、出血することがある。
果実は生食のほか、乾果、ジャム、プリザーブ、ピクルス、果実酒などに利用もされるが、主用途は缶詰とジュースである。缶詰工業は1886年に海峡植民地(現、マレーシア)、1892年にハワイでおこり、順次、生産費の低い栽培適地に広まった。缶詰は花柄(かへい)にあたる芯(しん)を抜き、皮をはいで円筒状にしたものを適当に切り、砂糖シロップを加えて加熱殺菌してつくられる。円筒形のままのもの、輪切りにしたもの、小片にしたものなど多くの種類がある。缶詰は菓子、フルーツサラダなどのほか、煮込み料理、豚肉料理などに利用する。パインジュースは缶詰製造過程の廃棄部分である果実表皮、果芯部、切片や破損果などを原料ともするが、缶詰に向かない低温期の果実はこれにあてる。ジュースは無濃縮と濃縮とがあり、前者はパルプ含有率3%以下にし、後者はそれを2%以下とし、最高6分の1まで濃縮され、零下30℃に保管される。ジュースのほか、パイン酢、アルコール、クエン酸石灰などもできる。
果実加工時に出る廃棄物約40~50%はそのままサイレージとし、あるいは乾燥してパイナップルブランpineapple branとして飼料とする。葉の繊維は強く、ロープその他に利用する。
[飯塚宗夫 2019年6月18日]
新大陸からの人類への贈物とされるほどに,世界各地で賞味されている果物。パイナップル科の多年草。葉は長さ約1mの剣状をなし,短い茎に向け漏斗状に配列され,少雨の利用に適応した形を示す。葉縁にとげを有する品種もあるが,1819年ころにとげのない系統が発見され,以降,経済品種として重用された。葉の先端は吹矢の矢じりに用いるほどに鋭い。主茎上に約150個の小花が,らせん状に密集した集合花序をつくり,下部から上方へ開花する。可食部は肥大した花序である。果形の均一性と一斉収穫のため,大規模栽培ではホルモンやエチレンなどの催花剤を利用して,一斉に花芽分化をさせる。南アメリカ原産であるが,世界の熱帯,亜熱帯で広く栽培されている。
日本では沖縄県に明治から大正時代にかけて,多数の品種が導入試作された。サトウキビ以上に台風に抵抗性があり,主要農産物の一つとなっている。酸性土壌にもよく生育し,乾生植物として耐乾性に優れ,葉面散布による施肥が有効である。果実は芳香の豊かさと風味のよさに加えて,ビタミンA,B,C,Gに富み,タンパク質分解酵素ブロメラインbromelainを含んでいる。追熟ができないため,成熟果実を収穫した現地で,缶詰,ジュースなどの一次加工がなされる。生食やサラダのほか,ジャム,酒,アルコールなどが製造される。ジュースの搾りかすは飼料もしくは肥料に利用される。葉からとれる繊維は,フィリピンの礼服バロン・タガログをはじめ,糸,ロープ,レースなどに用いられる。また,斑(ふ)入りや紅色をおびた葉の観賞用園芸品種もある。
執筆者:岸本 修
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域ブランド・名産品」事典 日本の地域ブランド・名産品について 情報
…単子葉植物パイナップル科の多年草の総称(イラスト)。花や葉がきれいなため多くの種が観賞用に栽培されている。…
…花の美しいプリムラ類による皮膚炎の原因は,葉の腺毛に含まれるプリミンによるものである。パパイア,パイナップル,イチジクなどの乳液によるかぶれは,タンパク質分解酵素による刺激のためとされている。変わった作用物質としては,クワ科のイチジク,セリ科のセロリ,パセリ,ミカン科のライム,レモン,ベルガモットなどに含まれるフロクマリン類が過食や皮膚への付着によって紫外線に対する光過敏症をおこし,火傷のような症状を示すことが知られている。…
※「パイナップル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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