大腿四頭筋拘縮症(読み)だいたいしとうきんこうしゅくしょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「大腿四頭筋拘縮症」の意味・わかりやすい解説

大腿四頭筋拘縮症
だいたいしとうきんこうしゅくしょう

先天的あるいは後天的な原因によって大腿四頭筋(大腿直筋、中間広筋、外側広筋、内側広筋)が伸展性を失い、膝(しつ)関節の可動性が制限または消失した状態をいい、大腿四頭筋短縮症ともよばれる。5、6歳の小児にみられ、そのほとんどが乳幼児期における大腿部への筋肉注射による後天的なものである。かつて集団的に多発して社会問題にまでなったことがあるが、筋肉注射が避けられるようになり、現在はまれなものとなった。しかし、注射の回数や薬液との因果関係については不明の点が多い。大腿直筋、内・外側広筋および中間広筋との間に癒着がみられ、主病変である大腿直筋では広範囲の瘢痕(はんこん)が認められる。病型は直筋型、広筋型、混合型に分けられる。

 症状瘢痕化の程度や範囲により異なるが、主症状は膝関節の屈曲制限である。大腿前面が陥凹し、股(こ)関節を伸展して膝関節を屈曲すると大腿前面に索状物を触れるほか、正座ができず、下肢を外に振り出すようにして歩いたり、殿部を突き出して歩くなどの歩行障害がみられる。特徴的な症状は尻(しり)上がり現象である。すなわち、伏臥(ふくが)位で股関節を伸ばしたまま膝関節を屈曲させていくと、ある角度以上曲がらなくなり、さらに曲げると股関節が屈曲して尻が上がってくる。

 軽症例に対しては膝関節の機能訓練や歩き方をはじめ、日常生活における動作改善を図るが、尻上がり現象が膝関節の屈曲30度前後でおこるような場合には、手術が必要となる。注射の乱用を避けることが予防となる。

 なお、注射による筋拘縮としては、このほか三角筋拘縮や殿筋拘縮がある。

[永井 隆]

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改訂新版 世界大百科事典 「大腿四頭筋拘縮症」の意味・わかりやすい解説

大腿四頭筋拘縮症 (だいたいしとうきんこうしゅくしょう)
quadriceps contracture

大腿四頭筋短縮症ともいう。大腿四頭筋の筋組織が瘢痕(はんこん)化し,機能障害を起こすもので,5~6歳の成長期の小児にみられる。この疾患は1946年にすでに報告されていたが,当時は先天的なものと考えられていた。しかし,70年代に入って各地で多発し,社会問題となった。そこで,日本医師会は74年,検討委員会を設け,その原因として,先天的なものと当該部位への皮下・筋肉注射によるものとがあることを明らかにした。症状は瘢痕化の程度や範囲によって異なるが,著しい例では,歩行に際して,悪いほうの肢が外旋し,走るとさらに著しくなる。また正座ができなくなる。膝関節に屈曲制限がみられ,腹臥位にして膝関節を曲げてやると,ある角度以上曲がらなくなり,さらに曲げると尻が上がる。これを尻上がり現象といい,この疾患の特徴とされる。治療としては症状の程度に応じて手術が行われる。注射を乱用しないことがたいせつである。
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