アペニノ山脈(英語表記)Appennino

改訂新版 世界大百科事典 「アペニノ山脈」の意味・わかりやすい解説

アペニノ[山脈]
Appennino

イタリアの脊梁山脈。全長1350km。アペニン山脈とも呼ぶ。ジェノバ湾岸サボナの西北西にあるカディボナ峠でアルプスから分かれ,イタリア半島を縦断している。シチリア北部のトルトTorto川に至る山脈も,アペニノ山脈の延長と考えられている。造山運動は始新世および中新世に始まるが,鮮新世の活発な活動によって,ほぼ現在の輪郭ができあがった若い山脈である。標高は大部分が1000~1500mであるが,半島中央部でもっとも高く,最高峰コルノCorno山は2914mである。

 地質は複雑であるが,おもに中生界~古第三系からなり,三畳系は石灰岩相,ジュラ~白亜系は砕屑岩相と石灰岩相,白亜~古第三系はフリッシュ相が特徴的である。とくに,三畳系の石灰岩は石材として利用され,トスカナ地方のカラーラ産の大理石古来有名である。第四紀には火山活動が起こり,ベスビオ,エトナなど現在でも活発な火山活動が見られる。

 山脈の主脈は中部アペニノ以南においては半島のアドリア海寄りに位置しているため,ティレニア海側斜面とアドリア海側斜面とではその形が非対称である。すなわち,アドリア海側は一般に急傾斜で丘陵が海にせまり,河川はあまり複雑な水路をとることなく,まっすぐに海に注いでいる。これに対してティレニア海側には,前アペニノ山地を形づくるいくつかの支脈が主脈と平行に走り,アルノ川テベレ川をはじめ,ティレニア海に注ぐ河川はきわめて複雑な流路をとっている。

 アペニノ山脈は半島の気候をアドリア海側とティレニア海側とで非常に異なったものにする役割を果たしている。とくに冬には中緯度大陸気団の影響を妨げる役割を果たすので,ティレニア海側はかなり温暖であるのに対し,アドリア海側は寒冷であり,海岸部ではときにはボラ(冬の北東季節風)の影響が及んで冷たい潮風が吹きつける。

 石灰岩質の地帯が多いため,アペニノ山地では地表水が少なく,近年,植林が盛んに行われてはいるが,森林は一般に貧弱である。土壌侵食も激しく,粘土質の地帯では崩壊地形も多く見られる。

 いくつかのアペニノ越えの峠があるが,古来もっとも重要な交通路として用いられていたのは,テベレ川に沿ってさかのぼり,メタウロ川を経てファノにぬけるフラミニア街道であった。鉄道時代になって,フィレンツェからまっすぐにボローニャにぬける18kmのアペニノ・トンネルが掘られ,また,最近は最高峰コルノ山の下にも高速自動車道のトンネルが掘られ,ローマからまっすぐアドリア海側にぬけられるようになった。
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世界大百科事典(旧版)内のアペニノ山脈の言及

【イタリア】より


[自然]
 長靴形の半島部およびシチリアとサルデーニャとから成るイタリアの自然は,かなり多様である。夏にはイタリアのほとんどの部分が低緯度大陸気団の影響下に入って,高温・乾燥によって特色づけられる〈地中海の夏〉によっておおわれるが,冬になると,アペニノ山脈の北部および東側は,中緯度大陸気団の影響を受けて,寒冷かつ湿潤であるし,中南部においても西からやってくる低気圧の影響を受けて,しばしば雨の降る不安定な気候を呈する。 地形的に見ると,アルプス造山運動の影響を受けたアルプス山脈とアペニノ山脈とが,国土の骨組みを形づくっていて,大きな平野はアルプス山脈とアペニノ山脈との間の大きな地向斜が第三紀および第四紀の堆積によってうずめられたポー平原があるにすぎない。…

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