翻訳|tunnel
土や岩を掘って地表下につくられた空間で,通常はほぼ水平な細長い通路状のものをいう。上方に地山(じやま)(在来地盤)を残して地中を掘り進んでつくられるものがふつうであるが,地表から溝状に掘ってその中にトンネル構造物をつくり,再び埋め戻してつくる,いわゆる開削工法によるものもトンネルに含まれる。この工法は都市内の街路下に,比較的浅い地下鉄道をつくるときなどに用いられる。今日ではトンネルの用途や様相も多様化しており,地下発電所用の大空洞,地下の自動車駐車場や各種の倉庫,地下貯油施設,あるいは地下街など,土や岩の崩落を防ぎながら地中を掘って空間をつくり,永久的に地山を支持する構造物を建設するという,トンネル技術を応用してつくられるものも,広義にトンネルの部類に入れて考えられるようになった。
1970年にOECDは,先進国,発展途上国のいずれにおいても,トンネルと地下の利用を促進することが社会的経済的に各国ならびに世界の発展にとって望ましいとし,技術開発と国際交流促進のため各国に国内中心機関を設け,これら各国機関を総合する国際的中心組織を置くことを提唱し,国際トンネル会議を開催した。この会議では,トンネルの定義を〈最終的に地表面下に位置して使用され,何らかの方法で所定の形状寸法につくられた空洞で,内空断面積で2m2以上のもの〉としている。すなわちトンネルをかなり広い意味にとらえているが,穴の径の小さい,人の潜れないような管路などは除外している。
日本では昔から隧道(すいどう)(慣用的には〈ずいどう〉とも読まれる)といい,鉱山では坑道,その他洞道などとも呼ばれているが,戦後の漢字制限や用語の簡素化などから,今日では公用としても日常用語としても,〈トンネル〉の名が広く用いられている。
人間とのかかわりでもっとも古いものは住居としての洞窟の利用であろう。実用的なトンネルの最初は,灌漑施設としてのカナートと思われるが,記録に残る最古のトンネルとしては,前17世紀ころ,バビロン第1王朝の首都バビロンにつくられたという水底トンネルである。ユーフラテス川の川底を横断して宮殿と対岸の神殿とを結ぶ連絡用通路トンネルで,雨季の増水時にも,参詣,礼拝ができるようにつくられたものという。このトンネルについてはバビロンの遺跡を訪れたヘロドトスが記録を残しているが,のち,ディオドロスは,延長約950m,トンネルの断面は幅4.6m,高さ3.6mの馬蹄形で,川の流路を切り替えた後に溝を掘り,その中に焼成煉瓦を天然アスファルトで接着しながら3,4層重ねとして巻き立て,土で埋め戻して完成したと推定している。
ギリシア時代からローマ時代にかけては,建築の一部としての人工の洞窟が多くなるとともに,交通用や水路用のトンネルも多数構築され,また軍事目的にも利用された。なかでもローマ帝国時代には,〈すべての道はローマに通ず〉といわれたように,直線で敷石舗装した馬車の疾駆できる主要公道372路線,8万2000kmが整備され,これに伴って,随所にトンネルがつくられ,そのうちのいくつかは現在でも残っている。
中世に入ると,とくに銅,鉄,石炭,岩塩などを入手するための鉱山用のトンネルが多数掘られた。この時代,掘削の手段としては人力しかなく,岩が堅くなると手のみ(鑿)で砕いて掘進し,ときにはトンネル内で火をたいて岩を熱しておき,これに急に水をかけて急冷し,岩に亀裂を入れて掘るという方法も用いられた。地山を支える支保工(支保ともいう)にはもっぱら木材が用いられ,トンネル内の照明,換気,排水のためにもさまざまなくふうがなされたことが記録に残っている。土木建築用の石材の切出しも鉱物の採掘と同様,トンネル技術の発達を促し,併せて地下通路,通水路(上下水道,灌漑など),墳墓などのトンネルもつくられた。
日本でも,1632年(寛永9),金沢市内で兼六園と城とに通水するため,犀川上流から水路トンネルや伏せ越しと呼ばれる逆サイホンなどを用いた辰巳(たつみ)用水の工事が着手されており,66年(寛文6)には明治維新以前の日本における最大のトンネル工事であった箱根用水の工事が始まっている。また佐渡の金山が盛んに採掘されたのも,この時代である。
18世紀も後半に至って産業革命を迎えるころには,イギリスやフランスをはじめとするヨーロッパの諸国では,内陸に舟運を通すため運河の建設が盛んに行われ,機関車の実用化は世界各地で鉄道建設のブームを巻き起こし,必然的に鉄道用としてのトンネルの需要が急増することとなった。
トンネルの掘削に黒色火薬が用いられ出したのは17世紀の後半になってからであるが,それまでのトンネル施工能率を飛躍的に向上させ,トンネル労働の近代化を実現したのは,A.ノーベルの発明(1866)によるダイナマイトの普及と空気削岩機の実用化であった。これに先立つ1845年に,フランス,イタリア間でアルプスを横断する12.85kmのモン・スニ鉄道トンネルを建設しようという大事業が決意された。当初は50年かかっても不可能といわれていたこの事業は,57年に予定工期25年で起工にこぎつけ,13年という一般の予想を大幅に覆す短い工期で71年には開通を見ることができた。これが刺激となって,この後ヨーロッパをはじめ世界各地で,大小の鉄道トンネルが計画,実行され,各種の技術の改良が進み,ザンクト・ゴットハルト鉄道トンネル(スイス~イタリア,全長15km,工期1872-82)や,シンプロン・トンネル(19.8km)など,数々の新しい記録がつくられていった。
モン・スニ・トンネルの開通した71年は,日本最初の鉄道が新橋~横浜間に開通した年である。これと並行して工事が進められていた大阪~神戸間は74年開業したが,この区間にある石屋川トンネル(延長61m)が,日本の近代トンネルの第1号とされている。このトンネル建設は,イギリス人技師E.モレルやJ.ダイアックの指導を受けたが,これに続く京都~大津間の建設では,665mの逢坂山トンネルを日本人独力で完成し(1880),84年には米原~敦賀間に延長1.35kmの柳ヶ瀬トンネルを完成させている。以来,国内の鉄道建設の伸長につれて,地形の険しい日本では多数のトンネルが必要となり,また火山性などの複雑かつ困難な地質条件を克服する必要から,トンネル技術の進歩が大いに促進され,日本を有数のトンネル技術国たらしめることとなった。明治,大正,昭和の前半にかけては,笹子トンネル(1896-1902年,延長4.6km),清水トンネル(1922-31年,延長9.7km),丹那トンネル(1918-34,延長7.8km),関門トンネルなどが代表的なものとされる。第2次世界大戦後は,在来鉄道の複線化やこう配改良,新線建設などにより,北陸トンネル(1957-61年,延長13.9km)や新清水トンネル(1963-67年,延長13.5km)などが生まれ,また新幹線の建設は一挙に多くの長大トンネルを生み出すこととなり,1981年には当時世界最長の大(だい)清水トンネル(延長22.2km)が完成している。さらに1988年には本州と北海道を結ぶ青函トンネル(全長53.85kmの海底トンネルで)が開通,これに匹敵するものは英仏間のドーバー海峡トンネル(ユーロトンネル,1994年開通)以外はない。
一方,道路トンネルとしては,高速道路の建設に伴って大規模なトンネルが急増しつつある。笹子トンネル(4.4km),第2六甲トンネル(6.9km),恵那山トンネル(8.4km)などが建設され,関越トンネル(10.9km)も1985年に開通した。また水路用としては,水力発電,灌漑,上下水道などの事業において多数のトンネルが施工・計画されている。これらの中では,地下発電所用の大断面空洞の建設と,下水道の急速な拡張のための都市周辺の一般には軟弱な地質のところでのトンネル建設がとくに注目されよう。
以上述べてきたように,トンネルと人間とのかかわりは,人類の登場とともに始まり,トンネルは文明の進歩とともにさまざまな利用形態をとって発達してきた。今後,生活空間が平面的なものからますます立体的なものへと拡大していくのに伴い,トンネルは人間の生活に不可欠なものとして,その利用方法もさらに多様化していくであろう。
トンネルをつくるには,事前に地形,地質の調査を行い,路線の平面形・縦断形とトンネルの断面形状や付属施設などの設計を行わなければならない。地形に関しては,既存の地形図によるほか,航空写真や地上測量によって正確な地形図を作成し,必要な基準点を設置する。地質の調査では,既存の資料の収集に始まり現地踏査,ボーリングや弾性波探査により,地質の種類や強度,風化の程度,断層や破砕帯の有無,地下水位や水圧などを各項目にわたり綿密詳細に調査する。弾性波探査は,一直線上に感震器を配列し,その一端で人工地震を起こし,地中を伝搬してくる振動波を感震器で受信し,これを解析することによって地層の重なりと各層の弾性波を通す速度を求めるものであって,一般に地震波の通過速度の大小は岩の堅軟に左右されるという原理に基づいている。
トンネルのルート選定は,これらの地形・地質の調査と関連して進められる。通常は地形図上に複数の候補路線を描き,これらを比較検討しながら最適なものを選出する方法が採られる。ルート選定と調査の作業は相互にフィードバックされ,新幹線や高速道路ならばそれらの諸元に適合し,地質が良好で工事の条件もよく,建設費も低廉となるようなルートが最終的に選定される。
トンネルの断面形状は,道路や鉄道などの交通用にあっては,通過する車両の車両限界や路線幅,その他の規格により内空断面の概形が決められ,これにトンネル力学や施工法上の便宜を考えて決定される。水路トンネルでは,通水量などの条件が満足されるようにする。断面形状は一般には馬蹄型,円形,上半円型・側壁直型などであるが,水路トンネルでは卵型,逆卵型なども用いられる。また最近のナトム工法では,外部土圧が覆工内軸力として連続的に伝わるよう,急な曲折を避けてスムースな円弧を連続させた,卵型やおむすび型に近い形状が選ばれる。
トンネルにはこのほか,湧水を処理するための排水設備,照明や換気のための設備,坑門コンクリート,安全保安設備などが計画され設置される。
トンネルの工法は,トンネルの種類,地形(山岳か平地か),地質(堅岩,軟岩か土や粘土か),湧水の有無などによって種々のものがある。大別して,山岳トンネル工法,シールドトンネル工法,開削工法に分類される。それぞれの工法によるトンネルを山岳トンネル,シールドトンネル,開削トンネルと呼ぶ。
山岳トンネル工法とは,地質は岩または洪積層の土を前提として,底設導坑先進上部半断面工法や側壁導坑先進工法,ベンチ工法(上部半断面先進工法),全断面掘削工法などの掘削方式を用いるものである。これらのうち全断面掘削とは,トンネルの完成断面(全断面)を一度に掘削してしまう方式をいい,その他は全断面を底設導坑,上部半断面部分,大背(おおぜ)(下半中央部),土平(どべら)(側壁部分)などの部分に分けて順次掘削していくものである(図のa~d)。地質が良好な場合には全断面掘削とし,地質に応じて部分掘削方式であるベンチ工法や導坑先進工法が選択される。
これらいずれの場合でも,地山が堅硬なときは発破を用いて掘削する。すなわち,(1)削岩機による穿孔,(2)爆破(装薬および点火),(3)ずり積み,ずり出し,(4)支保工建込みの順で行われ,以下再び,(1)~(4)の作業を繰り返しながら掘進することとなる。削岩機は圧縮空気を動力とするもののほか,近年は油圧を動力とする高性能なものがよく用いられる。削岩機には先端にビットをつけた2~6m長さのロッドを取り付けて,ダイナマイト装塡用の穴をうがつ。これらの穴は,中心部の心抜き,払い(両側),冠(上部),踏え(ふまえ)(下部),助け(すけ)(補助孔)などと役割があり,基本パターンを決めて作業する。1発破では1.2m,1.5m,1.8m,2.4m,3.0mといった延長を爆破する。地質がよい場合は爆破の延長を長くできて効率がよいが,地質の悪い場合は掘越しを少なくしてすばやく支保できるよう,1発破は短くせざるを得ない。爆破にはダイナマイトかアンホ爆薬を用いる。爆薬は筒状のもの,またはスラリー状のものがある。岩の硬軟に応じて薬量を調整し,また点火の順序と爆発の時間差を,1/1000秒単位で選べるミリセコンド雷管の選定によって最適値とする。爆破直後から切羽の換気を行って次の作業に備える。爆砕された岩石(ずりと呼ぶ)はずり積機を用いて,トロッコまたはトラックに積み込んで坑外へ搬出する。ずりを取り終わったら,爆破掘削された個所の地山を支えるための支保工を施工する。支保工としては,かつては松丸太を組み立てる木製支柱式支保工が用いられたが,その後鋼アーチ式支保工に代り,さらに現在ではナトム工法が主流を占めつつある。鋼アーチ式支保工は,強度が大きくて強い土圧にも耐えられるばかりでなく,空間が広くあいているので大型の機械類を導入できるという利点があり,また木製支柱式支保工の時代には土圧によって破壊されたり,偏圧で倒壊したりして,悲惨なトンネル落盤事故となったことも多かったが,鋼アーチ式支保工となってからは,この種の災害は激減した。ナトム(NATM。new Austrian tunnelling methodの略)工法は1960年代の初めにオーストリアで開発されたものである。在来の鋼アーチ式支保工では鋼製のアーチリブの外側に木製の矢板を用いて地山を押さえていたが,このナトム工法では,木矢板に代って掘削直後の露出面に吹付けコンクリートを施工し,これによって地山を適度な剛性で支保しようとするものであり,ロックボルトを併用してトンネル周辺の地山と覆工(地山の被覆)を一体化し,これで全土圧に対抗するという理論に基づいている。従来の矢板と剛な鋼材を用いる支保方式と異なり,地山に適当な変形を許して最小の材料で土圧と均衡させており,覆工と地山の間に空隙を生じたりせず,きわめて合理的な工法である。日本でも1977年以来,在来工法と置き換えられて急速に普及した。
トンネルの掘進に当たっては,精度のよい測量が不可欠である。トンネル施工前に地上でトンネル中心線上に中心測量を行って,トンネル掘進に伴ってこの測線をトンネル内にトランシットを用いて振り込んでいく。トンネル直上に測線を設けにくいときは,三角測量などによって相互の関係を求めておき,同様の操作でトンネル内に方向を振り込んでいく。高さについても,レベル(水準儀)を用いてあらかじめ両坑口間の高低差を測量しておき,トンネル掘進に伴い逐次トンネル内に計画高さを設定し,これに従って掘り進めて貫通させる。誤差を極少に止めるため,測量はトンネル工事中繰り返し行われる。
シールド工法とは,鋼製筒状の外殻(いわゆるシールド=盾の意)とその中に組み付けた油圧ジャッキをもったシールドマシンを用い,外側からの土圧は外殻で支持し,ジャッキでセグメント(一次覆工)を押して反力で外殻を前進させて掘進していくものである。地質が軟弱な場合,すなわち都市内の地下鉄や下水道の工事など,沖積層や砂れきなどの地質に用いられるが,山岳トンネルでも断層や砂,粘土層などの突破の際に採用されることがある。近年はシールド前面を開放しない,ブラインド型と呼ばれるもの,切羽とシールド機との間に掘削土砂を蓄え,切羽の自立を助けながら掘進する土圧バランス型,あるいは切羽との間にベントナイト泥水を満たし,これで土圧や水圧と均衡させながら掘進する泥水型など,新しい様式と機械式掘削方式を組み合わせた機種の開発が進み,いろいろな施工条件への適合が計られている。
→シールド工法
開削工法はオープンカット工法,あるいはカットアンドカバー工法とも呼ばれ,地上から溝状に掘削を行い,その底にトンネル構造物を建造した後,埋戻しを行ってトンネルを建設する方法である。設置深さの浅いトンネルの場合,とくに都市内街路下に設ける地下鉄道の建設とか,山岳トンネルの坑口部などで土被り(どかぶり)(トンネル上の土の厚さ)の薄い部分に用いられる。多くの場合,掘削する両側に杭などを建て込んで土留め工を施工する必要があり,また地表の交通などを維持しながら工事を行う場合は,掘削部上面を路面覆工板で敷きつめておく必要がある。これら土留めや路面覆工の施工は,工事費のうえで大きな部分を占める。諸外国の都市内地下鉄などの工事例では,工事中は道路交通をすべて遮断して施工しているものも多いが,日本ではほとんどの場合この方式は採用しにくい。
海や川の水底にトンネルを設ける工法としては沈埋工法などがあり,また特殊なトンネルとしての立坑や斜坑では工法にも独特のものがある。特殊な施工条件を克服するための工法として,湧水が多い場合に用いられる圧気工法や,湧水を止めるための注入工法,凍結工法などもある。
トンネルは地下にあって,一般には地震の影響を受けにくい工作物である。地表に比べて地中では地震の加速度,振幅ともかなり小さいことが知られている。しかし断層を通過しているトンネルでは,地震によりこの断層が移動し,トンネル覆工などが破壊された例もある。
トンネルにはその使用目的によって,必要な付帯設備が設けられる。トンネル本体の機能を維持,補足するために,坑口には坑門コンクリートが,坑内には湧水を排出するため水量に応じた排水路などが設けられる。鉄道トンネルでは蒸気機関車を用いる場合は別として,電気あるいはディーゼル動力の場合は照明(保守用を除く)や換気に特段の配慮はいらない。ただし,青函トンネルでは換気設備を考え,そのほか長大トンネル内での列車火災を想定して,定点停車設備を設けることとしている。道路トンネルの場合は,短いトンネルを除いて,照明と換気設備は不可欠である。照明はばい煙に対する透過率,まぶしさなどから,ナトリウム灯または蛍光灯が用いられ,またトンネル出入口部では,トンネルの長さ,内外の輝度差,設計速度などを考慮して,明るさを漸増,漸減する緩和照明を用いる。道路トンネルの換気は,交通量,車種などによって容量が異なるので,許容CO濃度,ばい煙などによる透過率を考慮して決定する。換気方式としては,完全横流式,半横流式,縦流式などの種類がある。近年建設コストの高い横流式にかえて,除煙装置併用の縦流換気方式の採用が多くなっている。さらに日本坂トンネルにおける火災事故(1979)などの経験をとり入れて,通報・警報装置,待避設備,消火設備などが設けられ,また防災センターを置いて常時監視する態勢がとられている。
執筆者:吉村 恒
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
地表面下につくられた通路または地下空洞。隧道(ずいどう)ともいう。ただし、空洞の断面積があまりに小さく、いわゆる管に属するものは除かれる。OECD(経済協力開発機構)の国際トンネル会議では、断面積が2平方メートル以上のものをトンネルと定義している。
[佐藤馨一]
住居としてのトンネル(洞窟(どうくつ))を別とすれば、トンネルの歴史は灌漑(かんがい)水路トンネルから始まっている。交通路としては、いまから4000年前、バビロン(現在のイラク)の川底トンネルが記録に残された最古のトンネルとされている。このトンネルは、ユーフラテス川の両岸にある宮殿と神殿をつなぐためのものであった。古代ギリシアやイタリアでは、都市へ水を供給するために水道施設の建設が盛んに行われ、大規模な水路トンネルが建設された。このことにより、イエス・キリストを処刑したティベリウス帝時代には1日80万立方メートルもの飲料水がローマ市民のために供給された。ローマ帝国はその版図を維持するために8万キロメートルに及ぶ道路網をつくったが、そこでも随所にトンネルが活用された。中世には銅、鉄、岩塩などを採掘するために多数の鉱道トンネルが掘られ、さらに墳墓用の地下トンネルが都市内に建設された。
日本では1632年(寛永9)に兼六園と金沢城に通水する辰巳(たつみ)用水が着工され、2000メートルに及ぶ水路トンネルや「伏せ越し」とよばれる逆サイホン装置がつくられた。また1666年(寛文6)には明治以前の最長水路トンネルである箱根用水(1280メートル)の工事が開始された。交通路トンネルとしては大分県耶馬渓(やばけい)にある青ノ洞門(185メートル)が有名である。豊前(ぶぜん)史によると、1735年(享保20)に掘削開始、16年後に開通したと述べられている。完成後は1人4文、牛馬は8文の通行料をとったとされ、有料道路の先例にもなっている。
トンネルは、産業革命を迎え、鉄道が陸上交通機関の主力となるにつれて重要性が増した。なぜならば、鉄道は急勾配(こうばい)の山岳地に弱く、トンネルを掘ることによって勾配の緩和を図る必要があったからである。またトンネル建設技術の改良も著しく、モン・スニ・トンネル(1857~71、13.65キロメートル)では圧縮空気削岩機が用いられた。さらにサン・ゴタルド・トンネル(1872~82、15.00キロメートル)では黒色火薬にかわってダイナマイトが使用された。大清水(だいしみず)トンネルが出現するまで約70年間、世界の長大トンネルの一つであったシンプロン・トンネルⅠ(1898~1906、19.8キロメートル)では先進導坑工法が考案された。
日本の鉄道トンネルの第1号は、大阪―神戸間にある石屋川トンネル(61メートル)である。このトンネルはお雇い外国人の設計によるものであるが、1880年(明治13)には日本人の独力により逢坂山(おうさかやま)トンネル(665メートル)を建設し、1884年には柳ヶ瀬(やながせ)トンネル(1.35キロメートル)を完成させた。なお水路トンネルとしては琵琶(びわ)湖疏水(そすい)の長等山(ながらやま)トンネル(1885~90、2.44キロメートル)が田辺朔郎(たなべさくろう)の設計監督により竣工(しゅんこう)した。地形が厳しく、しかも火山の多いわが国ではトンネル技術の改良研究が目覚ましく、笹子(ささご)トンネル(1896~1903、4.6キロメートル)、清水トンネル(1922~32、9.7キロメートル)、丹那(たんな)トンネル(1918~34、7.8キロメートル)、関門(かんもん)トンネル(1936~44、3.6キロメートル)などが続々と掘削された。また第二次世界大戦後には上越(じょうえつ)新幹線の大清水トンネル(1971~80、22.22キロメートル)や関越(かんえつ)自動車道トンネル(1973~85、10.92キロメートル)などの長大トンネルが建設された。その頂点にたつのが青函(せいかん)トンネル(1964~88、53.85キロメートル)である。ここでは海水を止めるために注入工法が開発され、1983年(昭和58)に先進導坑が貫通し、1988年に供用が開始された。
[佐藤馨一]
トンネルの用途は、鉄道・道路トンネルなどの交通用、水力発電・灌漑などのための水路トンネル、上下水道・電線路などの管路が大型化したトンネルなどがある。このほか、地下発・変電所、石油類貯蔵用地下空洞なども、トンネル技術を適用した地下建造物として、広義にはトンネルに含めて考えられている。トンネルは用途による分類のほかに、掘削の対象となる地質によって岩石トンネルと土砂トンネルとに分けられ、また施工場所および施工の方法によって山岳トンネル、都市トンネル、水底トンネル、開削トンネル、シールドトンネル、沈埋(ちんまい)トンネルなどに細分類される。
[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]
普通、トンネルといわれるのは、山腹を貫く道路や鉄道などの山岳トンネルをさすことが多い。トンネルの断面形は、作用する地圧などに対して有利な馬蹄(ばてい)形が多用される。通常掘削されたトンネルの内面は、地圧に耐えうる厚さのコンクリートなどで被覆し、所定の内空断面に仕上げる。これを覆工(ふっこう)(ライニングlining)という。岩盤が堅硬な場合は覆工を省略し素掘りとすることもある。地質が悪い場合は、さらにインバートinvert(上に凹なアーチ形の覆工)を付して閉合断面を構成し耐荷力を増したり、地圧が強大な場合は卵形や円形断面もしばしば用いられる。
山岳トンネルの施工法は、掘削形式によってさまざまである。地質が良好な場合は掘削すべき全断面を一度に掘進することができるが、地質の変化が激しい場合や不良地質が存在する場合には、最初掘削断面の一部分を先行掘削したあとに順次所定の断面まで切り広げる方法がとられている。掘削順序によって、上部半断面先進工法、底設導坑先進上部半断面工法、側壁導坑先進上部半断面工法などがあり、地質や施工条件に応じ選択される。
トンネルの掘進は、一般に削岩、爆破、ずり(破砕された岩屑(いわくず))搬出、岩肌の崩壊を防ぐための支保工建込みおよび覆工という一連の作業の繰り返しによって行われる。これらの作業はほとんど機械化されており、掘削、ずり出しはドリルジャンボ、高性能ずり積込み機、ずり運搬車、坑内機関車、覆工では鋼製移動型枠(スチールフォーム)、コンクリート打設用各種機械が活用され、工事の急速化、省力化が図られている。また、掘削工法は発破工法が主力とされているが、機械掘削も条件に応じ採用される。トンネル掘進機としては、ブーム式の自由断面掘進機や全断面掘進機(トンネルボーリングマシンともいう)がある。これらのトンネル掘進機は、地質に対する適用性、掘削できる断面などの点で制約があり、機械も高価であるが、条件さえよければ施工速度が高いこと、発破工法に比べて騒音や振動が少ないことなどの利点がある。
支保工に関しては古くは木製が一般的であったが、第二次世界大戦後、鋼アーチ支保工が用いられるようになった。この鋼アーチ支保工の採用により大きな作業空間の確保が可能となり、在来のトンネル工法を一変させた。また、近年ではロックボルト、吹付けコンクリート、可縮支保工などを併用し地圧と変形量を制御する新しい支保工、覆工形式がヨーロッパから導入され、用いられている。この工法は新オーストリア工法New Austrian Tunnelling Method(略してNATM(ナトム)という)とよばれているもので、日本では1970年代後半に上越新幹線建設工事で初めて本格的に採用された。この工法は、在来の鋼製支保工では支えられないような強大な地圧が作用する膨張性地山や、未固結の軟弱な地山などの不良地質の場合にも適用できる。また、従来よりも大断面の掘削ができ、大型施工機械の投入による急速施工化、省力化を図りうる可能性を有しており、その適用範囲が拡大される傾向にある。
日本における山岳トンネル工事は、その地質の特質から諸外国ではあまり例をみない施工の困難さをもっており、破砕帯、断層、湧水(ゆうすい)などの処理技術の進歩は著しい。日本アルプスを横断する最初のトンネルとして1955年(昭和30)に着工された黒四ダムに通じる大町(おおまち)トンネルでは、水頭420メートルに相当する高圧水の噴出に遭遇し、その対策として迂回(うかい)坑、先進ボーリングによる地山水排除工法を採用して破砕帯の突破に成功した。この工法は山岳トンネルでの断層湧水箇所突破の標準工法として定着している。さらに青函(せいかん)トンネル工事では、長尺水平ボーリングによる地質と湧水箇所の予知に関する研究が進み、切羽(きりは)前方の湧水箇所をかなりの確度で検出できるようになった。また、湧水を排除するかわりに、この先進ボーリング孔からセメントミルクなどを高圧注入して止水する技術も長足の進歩を遂げた。1981年(昭和56)に貫通した上越新幹線中山トンネルでは、毎分130トンに及ぶ大量の湧水が注入量10万立方メートルに達する大規模な薬液注入によって克服された。これらの技術は各地の長大トンネルの施工に大きく寄与している。
[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]
地表面から掘り下がり、地下所定位置に構築物を築造したのち、その上部の埋戻しを行う方法(開削工法という)により建設されたトンネルをいう。おもに都市における地下鉄、洞道、地下道路などのうち、掘削深さが比較的浅い場合に用いられている。開削工法によるトンネル断面には、ほとんどの場合、長方形の箱形トンネルが用いられ、構造材料には鉄筋コンクリートを採用するのが普通である。開削の方法としては、周辺の土砂の崩壊を防ぎ地盤の安定を保つような斜面の勾配(こうばい)をとって開削する法(のり)切り開削、土止め壁、支保工を施しながら開削する土止め開削工法などがある。また、工事中地表面の道路交通を確保する必要のあるような場合は、杭(くい)や土止め壁によって支持される横桁(けた)を架け渡し、この上に覆工板を張って覆蓋(ふくがい)する方法がとられる。これを路面覆工という。
[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]
地盤内にシールドと称する強固な鋼製円筒状の外殻をもつ掘進機を推進させてトンネルを構築する工法をシールド工法という。施工法はシールドの構造によって異なるが、ジャッキ推力によりシールドを地中に押し込み切羽および周辺地山を支持しながら、シールド前端の刃口で掘削を行う。シールド後部では推進につれて鋼製または鉄筋コンクリート製のセグメントを組み立てて覆工を行い、裏込め注入を行って覆工と地山との間の空隙(くうげき)を充填(じゅうてん)する。さらに二次覆工として、セグメントによる一次覆工の内側に内巻きコンクリートを施工する場合も多い。また、セグメントを用いず現場打ちコンクリートにより覆工しながら掘進する工法もある。シールド機の種類には手掘り式、半機械掘り式、機械掘り式、泥水加圧式、土圧バランス式などがあり、補助工法としては、高圧空気を送入する圧気工法、薬液注入工法、地下水位低下工法などが用いられる。断面形状は円形が一般的で、特殊なものとしては半円形、馬蹄形、長方形、めがね形などがある。トンネル外径が2メートル程度のものから10メートル以上の大断面のものまで施工されている。
シールド工法は19世紀初めにイギリスで考案され、当初河底トンネルや湧水のある軟弱な地盤のトンネルなど特殊な条件下における工法として利用されてきた。しかし、近年、都市内のトンネル工事は、施工時の路面交通の確保、騒音・振動の問題、各種既設構造物との立体交差や近接施工の必要性の増大などからシールド工法の採用例が急増し、在来の開削工法の分野までシールド工法が広く採用される傾向にある。
[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]
沈埋工法は河川、運河、港湾などを横断して水底にトンネルを建設するための工法で、建設するトンネルの構造体を適当な長さに分割して陸上のドライドックや造船台で製作し、このトンネルエレメントを水上に浮かべて現場まで曳航(えいこう)し、あらかじめ浚渫(しゅんせつ)した溝(トレンチ)の中に沈設し、これを順次接続してトンネルを建設する工法である。
沈埋工法は19世紀末にボストン港で初めて施工され、以降アメリカおよびヨーロッパを中心にしだいに発展し、現在では世界各国で数多くの沈埋トンネルが建設されている。日本では、小規模ながら古くは安治川(あじかわ)河底トンネル(1944)があり、その後、道路、鉄道、モノレール、水路、ガス配管トンネル、ベルトコンベヤートンネルなど種々の用途の沈埋トンネルが各地で完成している。
沈埋トンネルの構造は、ヨーロッパを中心に発達した長方形断面の鉄筋コンクリート構造と、アメリカで多用されている円形あるいは小判形断面で鋼殻を有するものとに大別され、いずれもプレハブ形式である。また、一部にはプレストレストコンクリート構造も採用されている。断面寸法で最大級のものとしては、E3シェルデトンネル(ベルギー)、E3エルベトンネル(ドイツ)、東京港海底トンネル(日本)などがあり、東京港海底トンネルの場合、上下各3車線を有し、トンネル総幅員は約37メートルに達する。施工水深は一般には40メートル程度までであるが、施工技術や沈設機械などの向上とともに施工可能水深も順次拡大される傾向にある。
[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]
ニューマチックケーソン工法によるトンネルの施工は、一般にケーソン躯体(くたい)を地上部に配列し、これを順次、所定の深さまで沈設し、相互の躯体を連結してトンネルを構成する。ニューマチックケーソン工法はドライで掘削が行えること、地盤強度の確認が確実に行えることなどにより、河底横断や軟弱地盤、あるいは既設構造物への近接施工などを要求されるトンネル工事に施工例が多い。また、沈埋トンネル両端の接続部や水路トンネルの取放口、シールドトンネルの立坑など、トンネル工事の一部にニューマチックケーソン工法を用いる場合も多い。
[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]
地下発電所などの地下空洞の掘削例は国内外とも比較的多いが、近年大容量揚水式発電所が出現するに及んで空洞規模は飛躍的な拡大をみている。地下空洞掘削の設計・施工法は、本質的には一般の山岳トンネル工事と異ならないが、空洞規模が大きくなると掘削による地山への影響が顕著に及ぶので、通常の場合以上に事前の調査、予測および施工の信頼性と確実性が必要とされる。
建設地点の地質は堅硬緻密(ちみつ)な安定した岩盤であることが要求されるが、ロックボルト、岩盤PS(プレストレス)工、コンクリート吹付けなどの施工技術の進歩と岩盤力学の新しい知識を加えて、ある程度不良の地質条件においても安定した大空洞を掘削できるようになってきた。さらに、施工目的としても、石油、液化天然ガスの地下貯蔵や、原子力発電所の地下化など、種々のものが実施あるいは計画されている。
[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 土木技術の対象は構造物,施設,開発に大別することができる。構造物とは,橋とかトンネルのような人工の個体であり,土木施設は鉄道とか,発電施設のように,多種類の構造物が組み合わされて新たな機能を生み出すものである。開発は前2者と若干性格を異にし,施設のいろいろの組合せによって,ある地域に固有の生活・生産環境をつくり出すことである。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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