違憲審査権[アメリカ合衆国憲法](読み)いけんしんさけん[アメリカがっしゅうこくけんぽう]

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

違憲審査権[アメリカ合衆国憲法]
いけんしんさけん[アメリカがっしゅうこくけんぽう]

アメリカ合衆国の連邦最高裁判所が,連邦議会の制定した法律,アメリカ合衆国大統領の行なった処分についてアメリカ合衆国憲法に違反するか否かを審査すること。裁判所がこのような違憲審査権を有することは,アメリカ合衆国憲法には明文の規定がなく,1803年,連邦最高裁判所 J.マーシャル長官が,マーベリー対マディソン事件において初めて判示したところに由来する。この事件はアダムス大統領によってコロンビア地区の治安判事に任命された原告が,事務上の都合で辞令書の交付を受けるにいたらない間に,同大統領が任期満了によって退任,新たにジェファーソン大統領のもとでマディソン国務長官が就任し,同国務長官が辞令書の交付を拒絶したので,連邦最高裁判所に国務長官を相手取って辞令書を交付させる令状を発せられるように請求したものである。最高裁判所は,原告が右辞令書の交付を求める権利を有すること,この権利が侵害されたこと,裁判所法には最高裁判所がその令状を発する規定の存することを認めた。しかし,最高裁判所が第1審の管轄権を有するのは,憲法によって (1) 大使公使など外交使節に関する事件,(2) 州が当事者である事例に限られており,裁判所法が最高裁判所に広く事件のいかんを問わず令状を発する権限を与えたことは,憲法に抵触すると判断した。この事件が先例となって,アメリカ合衆国最高裁は,しばしば合衆国議会の制定した法律や大統領のとった措置を違憲と判断するようになった。

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