改訂新版 世界大百科事典 の解説
アインシュタインの比熱式 (アインシュタインのひねつしき)
Einstein's formula for specific heat
固体の格子比熱と温度との関係を与える式。A.アインシュタインによって1907年に導かれた。固体は格子振動にエネルギーを蓄えることができるので,それに付随した比熱(格子比熱)をもっている。この比熱は,高温ではデュロン=プティの法則に従って一定値3Nk(Nは原子数,kはボルツマン定数。気体定数をRとすればNk=R)をとるが,低温で急速に0になり,デュロン=プティの法則から大きくずれる。古典論では説明できないこの現象に対し,アインシュタインは一つ一つの原子を単振子とみなし,それに量子力学を適用して,単振子がħω(ħはプランク定数を2πで割ったもの,ωは単振子の角振動数)を単位とする不連続なエネルギーをもつと考えることによって,アインシュタインの比熱式と呼ばれる次の式を導いた。
ここで,Cvは格子比熱(定積),Tは絶対温度で,β=1/kTである。実験結果との一致は必ずしも十分とはいえないが,この式はそれまで説明が困難であった低温での格子比熱のふるまいに初めて説明を与えた。その後,デバイは単振子の振動を独立とせず波動として扱うことによって,より実験結果と一致するデバイの比熱式を導いた。
執筆者:小林 俊一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報