アスクレピオス(読み)あすくれぴおす(英語表記)Asklēpios

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アスクレピオス」の意味・わかりやすい解説

アスクレピオス
あすくれぴおす
Asklēpios

ギリシア神話の英雄で医術の神。もっとも有名な出生譚(たん)では、アポロンコロニスの子。アポロンはテッサリアの王プレギアスの娘コロニスを愛し、1子を身ごもらせた。しかし、コロニスがエラトスの子イスキスと通じたので、アポロンはコロニスを殺し、火葬の薪(たきぎ)の中から腹の子のアスクレピオスを救い出したとされる。別の伝承では、盗賊のプレギアスの娘コロニスが、アポロンに犯されて生んだ子とされる。アルゴス半島のエピダウロスに捨てられたその子は、牝山羊(めすやぎ)に乳をもらい、犬が番をしていたが、そのようすを見た動物たちの主人アレスタナスはその子を神の子と知り、あえて拾い上げなかった。1人で成長したアスクレピオスは、やがてエピダウロスにおいて神として崇拝された。彼は父神アポロンによって怪物ケンタウロス一族のケイロンに預けられ、医術と薬術を学び名医となった。さらに女神アテネからは死者を蘇生(そせい)させる力をもつメドゥサの血を得、多くの英雄を生き返らせたが、その能力を恐れたゼウスにより雷で殺された。のちにアエスクラピウスの名で祀(まつ)られたこの医神は、やがてへびつかい座の星に変身した。

[小川正広]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アスクレピオス」の意味・わかりやすい解説

アスクレピオス
Asklepios

ギリシア神話の医術の神。アポロンとテッサリアの王フレギュアスの娘コロニスの間に生れた。コロニスはアポロンに愛され,妊娠していたにもかかわらず,イスキュスという人間の男と通じたため,怒ったアポロンは彼女を射殺した。しかしコロニスの遺体が火葬される直前に,彼はその胎内から赤子を取出し,ケンタウロスのケイロンにその養育を委託した。ケイロンから医術を教えられたアスクレピオスは死人まで生返らせてしまうほどの名医となったが,その結果死者の国の支配者ハデスの怒りを買い,ハデスの要求を受けたゼウスによって雷で焼殺された。だがそのあとで彼は復活させられてオリュンポスの神々の仲間入りを許され,医神として人々の尊崇を受け,エピダウロスにあった彼の神殿はギリシアにおける最も重要な聖地の一つとなった。アスクレピオスの持っていたへびの巻きついた杖は,のちに医学のシンボルになり,彼の娘ヒュギエイア Hygieiaは健康の守護神であったことから衛生学 hygieneの語源となった。

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