ギリシア神話の医神。アポロンとラピタイ族の王の娘コロニスKorōnis(カラスの意)の子。コロニスが妊娠中に不貞を働いてアポロンに殺されたあと,その胎内から取り出されて生をうけた彼は,ケンタウロス族の賢者ケイロンに医術を学んで名医となった。しかしその卓越した医術は,やがて死者を蘇生させる力さえもつまでに至ったので,彼は自然の理法が覆ることを恐れたゼウスの雷霆(らいてい)にうち殺され,へびつかい座の星になったという。ペロポネソス半島のエピダウロスには,アスクレピオス崇拝の中心地となった壮大な神域があり,病人は神殿内で就寝中に神の恩寵にあずかって癒やされたと伝えられる。ローマへは,疫病が大流行した前293年,医神の娘で健康の女神ヒュギエイアHygieia(ラテン名サルスSalus)とともにエピダウロスからその崇拝が移入され,テベレ川の中州の神殿に分祠された。彼の聖獣は蛇で,供物には雄鶏が捧げられた。
執筆者:水谷 智洋
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ギリシア神話の英雄で医術の神。もっとも有名な出生譚(たん)では、アポロンとコロニスの子。アポロンはテッサリアの王プレギアスの娘コロニスを愛し、1子を身ごもらせた。しかし、コロニスがエラトスの子イスキスと通じたので、アポロンはコロニスを殺し、火葬の薪(たきぎ)の中から腹の子のアスクレピオスを救い出したとされる。別の伝承では、盗賊のプレギアスの娘コロニスが、アポロンに犯されて生んだ子とされる。アルゴス半島のエピダウロスに捨てられたその子は、牝山羊(めすやぎ)に乳をもらい、犬が番をしていたが、そのようすを見た動物たちの主人アレスタナスはその子を神の子と知り、あえて拾い上げなかった。1人で成長したアスクレピオスは、やがてエピダウロスにおいて神として崇拝された。彼は父神アポロンによって怪物ケンタウロス一族のケイロンに預けられ、医術と薬術を学び名医となった。さらに女神アテネからは死者を蘇生(そせい)させる力をもつメドゥサの血を得、多くの英雄を生き返らせたが、その能力を恐れたゼウスにより雷で殺された。のちにアエスクラピウスの名で祀(まつ)られたこの医神は、やがてへびつかい座の星に変身した。
[小川正広]
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…古代のヘルメス文書は膨大な量に上ったらしく,20世紀中葉,上エジプトで発見されたナグ・ハマディ文書(ナグ・ハマディ)の一部もヘルメス文書である。今日に伝存しているのは全体の一部であり,それは(1)《コルプス・ヘルメティクム(ヘルメス選集)》や《アスクレピオス》などを含む哲学・宗教的作品,(2)占星術,(3)錬金術,(4)魔術作品その他に分類できる。原文はほとんどの場合ギリシア語であるが,現存するものにはそのラテン語訳(その他の翻訳)しかないことも少なくない。…
…医者であったともいわれる。死後も知者として名高く,後世半神として尊崇され,プトレマイオス王朝時代には医術の神とみなされ,ギリシアでは医神アスクレピオスと同一視されるに至った。【堀内 清治】。…
…本来の形は先端から2本の小枝がのびて本体にからんでいる木の枝で,水脈を探すための占い棒に近い形であったらしいが,後に2匹の蛇が棒をはいあがる形となった。蛇は大地の力をあらわすものと考えられ,ギリシアの医神アスクレピオスは大地的治癒力を伝える蛇のからんだ杖を持っていた。最もよく知られているカドゥケウスは,ヘルメス神の持物で,ヘルメスはこの杖を印として冥界・地上界・天界の間を往復し,神々の相互の意思や,とくにゼウスの命令を伝える伝令の役割を果たした。…
…シビュラの予言書も同様に伝えられてずっと重視され続けた。そればかりか治癒神アスクレピオス,大地母神キュベレも東方から入り,公認の神となった。しかし密儀と乱脈を伴うディオニュソス(バッコス)礼拝は厳しく弾圧された。…
※「アスクレピオス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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