日本大百科全書(ニッポニカ) 「アナバチ」の意味・わかりやすい解説
アナバチ
あなばち / 穴蜂
digget-wasps
昆虫綱膜翅(まくし)目アナバチ科の総称、およびこの科の1亜科、あるいは1族の名称。アナバチ科Sphecidaeはすべて有翅で、腹部は有柄、腹部末端は縦に裂けず、産卵管は末端から出る。前胸背板は側部が肩板まで届かない。体毛は比較的少なく分岐しないなどが特徴。世界のアナバチ科は11亜科226属に分類され、約8000種が記載されているが、このうち日本には7亜科38属の約280種が分布している。アナバチ科はジガバチ科と別称されることもあり、分類学上は細腰(さいよう)亜目に属し、大小さまざまな種類を含む有剣類の狩りバチである。この科のハチは自ら営巣して幼虫室をつくり、幼虫の食料を用意するものと、他のものの巣に寄生するものとがある。獲物は各種の昆虫やクモ類で、その生活習性はきわめて変化に富む。セナガアナバチ類はゴキブリを、ジガバチ類はガやチョウの幼虫を、コシボソアナバチ類はアリマキやヨコバイを、ツチスガリ類はコハナバチやハムシやゾウムシを、ジガバチモドキやピソンバチやキゴシジガバチ類はクモ類を獲物としている。
アナバチ族Spheciniのハチは大形種で、日本にはSphex、Isodontia、Prionyxの3属を含む9種類が分布している。キンモウアナバチSphex flammitrichusとクロアナバチS. argentatus fumosusは本州以南の各地の盛夏に出現するが、キンモウアナバチは本州中部以北には産しない。河原や海浜など砂地に穿孔(せんこう)営巣し、クサキリやツユムシやクダマキモドキなど直翅目の若虫(わかむし)や成虫を狩って幼虫の食料とする。コクロアナバチIsodontia nigellaとアルマンアナバチI. harmandiは枯れ木の虫孔や竹筒を利用して営巣し、枯れ草やコケなどで巣房の仕切りとする。幼虫の食料にはササキリやウマオイなどを狩る。コクロアナバチは6月ごろから各地にみられるが、アルマンアナバチは7月ごろから山地に出現する。
[須田博久]