アブサロム、アブサロム!(読み)あぶさろむあぶさろむ(英語表記)Absalom,Absalom!

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

アブサロム、アブサロム!
あぶさろむあぶさろむ
Absalom,Absalom!

アメリカの作家、フォークナー長編小説。1936年刊。『旧約聖書』のアブサロムの物語を踏まえて、一介の貧農の息子でありながら、侮辱を与えた大農園主に匹敵する一家をなそうという野望に取りつかれ、一時は成功したかにみえたにもかかわらず、ついにはすべてを失って悲劇的な死を遂げるトマス・サトペンとその一族の物語を、何人かの語り手を通じて浮かび上がらせる壮大な実験的小説。物語は南北戦争時を中心としているが、それを聞きかつ解釈する人は、初期の作品『響きと怒り』に登場したクェンティン・コンプソンとそのハーバード大学の友人シュリーブ・マッキャノンであり、究極的には、黒人問題の矛盾を抱えるアメリカ南部苦悩を通じて現代の人間の苦悩と運命が暗示され、それに立ち向かう人間の極限的な状況が啓示されることになる。フォークナー中期の文学を集約する傑作である。

大橋健三郎

『大橋吉之輔訳『アブサロム、アブサロム!』(『フォークナー全集12』1968・冨山房・所収)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

アブサロム,アブサロム!
Absalom, Absalom!

アメリカの小説家ウィリアム・フォークナーの小説。1936年刊。19世紀初頭,ウェストバージニア山間部に生まれたプア・ホワイト,トマス・サトペンの野望と破滅を現代の語り手による聞き書きという複雑な構成のうちに描いたフォークナーの代表作の一つ。階級差別を知らされた純朴な少年サトペンは南部貴族に列するための「大計画」をいだき,着々と実行していくが,その計画の非人間的要素のために,白痴の黒人少年ただ1人を残してサトペン一家は死に絶える。宿命論的な物語のうちに,作者は南部の罪の問題を追求している。

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