日本大百科全書(ニッポニカ) 「アブラツノザメ」の意味・わかりやすい解説
アブラツノザメ
あぶらつのざめ / 油角鮫
North Pacific spiny dogfish
[学] Squalus suckleyi
軟骨魚綱ツノザメ目ツノザメ科ツノザメ属の1種の名称。アブラザメともよばれる。従来、ツノザメ属Squalusのうち、体に白点をもつ種はS. acanthias(英名spiny dogfish)とよばれ、この種が全世界に分布すると考えられてきたが、2010年に北太平洋の個体群は別種S. suckleyiであることが判明した。したがって、北太平洋のアブラツノザメの学名はS. suckleyiとなる。
本種は遊泳力が強く、大きな南北回遊を行い、春に日本海や東北地方から北上を開始し、秋には千島(ちしま)列島や樺太(からふと)(サハリン)に達する。極端な回遊の例としては、アメリカのワシントン州沿岸から日本の東北地方沿岸まで7200キロメートルを7年で横断した記録がある。生殖方法は卵黄依存型の胎生で、妊娠期間は2年弱と非常に長い。日本近海の分娩(ぶんべん)海域は、日本海側では青森県以南、太平洋側では宮城県から茨城県の沖合いであるといわれている。分娩期は1~5月で、全長20~25センチメートルの子を、一度に10尾内外産む。雄は75センチメートル、雌は1メートル弱で成熟する。最大で1.5メートル、9.1キログラムに達する。日本では1940年代に、ビタミンAを採取するため大量に漁獲され、資源量が著しく減少したが、2000年ころからは資源が回復してきている。アメリカでは本種による有用魚貝類への被害が多く、むしろ害魚として扱われている。日本では底引網、延縄(はえなわ)、底刺網(そこさしあみ)などで漁獲され、その主要な漁場は北海道、東北地方周辺の海域である。練り製品の原料とされるほか、鮮魚として酢みそなどにすると美味である。国際自然保護連合(IUCN)のレッド・リストでは、低懸念(LC)とされている(2021年9月時点)。
[仲谷一宏 2021年10月20日]