アライグマ(読み)あらいぐま(その他表記)raccoon

翻訳|raccoon

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アライグマ」の意味・わかりやすい解説

アライグマ
あらいぐま / 洗熊
raccoon
northern raccoon
[学] Procyon lotor

哺乳(ほにゅう)綱食肉目アライグマ科の動物。カナダ南部から中央アメリカまで分布する。体長40~55センチメートル、尾長20~40センチメートル。体は灰褐色から赤褐色で、尾には5~7本の黒色輪がある。毛は長く柔らかい。湖沼や川に近い森林にすみ、夜間活動する。主食はネズミや水中の小動物、卵、果実などである。寒冷な地方では樹洞などの巣に入って冬眠する。飼育下でもよく繁殖する。1~2年で成熟し、63日の妊娠期間ののち、春に3~4頭の子を産む。長寿記録は18年。よく食べ物を手で洗う動作をするところから、この和名がついた。以前は毛皮を得るため大量に捕獲されたが、現在ではスポーツとしての狩猟の対象となっている。

[祖谷勝紀]

近似種

アライグマ科Procyonidaeの動物はクマやイタチに近縁であり、すべてアメリカ大陸に分布する。次の6属18種が含まれる。カコミスルBassariscus2種、アライグマ属Procyon7種、ハナグマNasua2種、ヤマハナグマ属Nasuella1種、キンカジューPotos1種、オリンゴBassaricyon5種。歯式は

で、合計36~40本。雑食性で、木登りが得意である。なお、アジアに分布するレッサーパンダジャイアントパンダも、アライグマ科に含められたこともあるが、パンダ科Ailuropodidaeとして独立させる考えや、クマ科Ursidaeに含めることが多い。

 アライグマ属には、種としてのアライグマのほかに、中央アメリカとカリブ海の島に5種、南アメリカに1種が知られている。このうちカニクイアライグマProcyon cancrivorusは、中央アメリカのコスタリカから南アメリカのコロンビアブラジルアルゼンチンに分布する。アライグマに比べて耳が丸く、毛は硬く、下毛がないため、ほっそりとして四肢が長くみえる。体長60センチメートル、尾長30センチメートル。習性はアライグマとほとんど同じである。

[祖谷勝紀]

『今泉吉典監修『世界の動物 分類と飼育2 食肉目』(1991・東京動物園協会)』『E・T・シートン著、今泉吉晴監訳『シートン動物誌5 スカンクの社交術』(1998・紀伊國屋書店)』


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改訂新版 世界大百科事典 「アライグマ」の意味・わかりやすい解説

アライグマ (洗熊)
racoon
coon
Procyon lotor

一見タヌキに似るが,ほおから目の周囲にかけて顕著な黒帯をもち,尾に黒色の輪状の縞模様のある食肉目アライグマ科の哺乳類。雑食性で小型イヌ大。カナダ南部から北アメリカ中部までに分布する。体長40~60cm,尾長20~40cm,体重4.5~10kg。長く密生した毛に覆われた体は,背側が灰黒色から黄黒色,腹側は背側よりいくらか淡い。頭部は白みを帯びる。尾は灰色または黄褐色の地に4~6本の黒色の輪模様がある。全体に丸みをもつ頭部だが,口吻(こうふん)部は突出する。前・後脚とも器用に動く5指を備え,つめは長く鋭い。蹠行(しよこう)性(指骨と中足(ちゆうそく)骨の部分を地につけて歩く)で,足跡は人間のそれと形がよく似ている。

 低地から標高2500mまでの水辺近くの森林に好んで生息する。ときには人家近くの森や市街地の公園でも見られる。主として地上で活動するが,木登りが巧みで,鋭いつめを使って体をしっかり支え,頭としりのどちらからでも降りることができる。巣はふつう樹洞に,ときには岩の間や地中の穴につくり,単独ですむ。一つの巣穴に複数の個体がすむ場合は母と子からなる家族群で,日没後に巣を出て,ともに採食に出かけるのが見られる。半径約1.5kmの行動圏を歩き回り,カエル,魚,小型哺乳類,昆虫,貝類,ミミズ,果実,草,木の葉などを食べる。とくに水辺で,前脚を使い水中からザリガニなどの水生動物をとらえるのを好む。口で直接食物をとるイヌ類やネコ類と異なり,アライグマは,しばしば前脚の長い指でつかみ,口に運ぶ。また,食べる前に食物片を入念に手でさぐり,いじり回し,においをかいで調べる。広く知られているアライグマの食物を〈洗う〉行動は,飼育されているアライグマに頻繁に見られる現象で,飼育による一種の行動のゆがみであると考えられる。すなわち,野生状態で水生動物を水中から前脚で採取することの多いアライグマが,飼育条件下でその機会を与えられないためにうっ積した捕獲衝動を,食物を水中にいったん浸した後それを前脚でとらえ,水中で動かすことによって発散させているらしい。

 零下数度を超える厳寒期には活動が著しく低下し,数週間食物をとらずに巣で過ごすことがある。ただし,冬眠はしない。1~3月の交尾期になると雌雄はつがい関係を結び,短期間いっしょに生活する。雌は63~64日の妊娠期間の後1~7子を生む。天敵には人間のほか,ピューマ,ジャガーなどがある。幼若個体はボブキャット,キツネ,テン,イヌなどにも襲われる。

 アライグマの毛皮は良質とされる。19世紀には大量の商業的取引が行われ,毎年1万頭以上が殺された。今日では秋におもにスポーツとしてのアライグマ狩りが行われている。アライグマは,キャンプ場の残飯をあさりにくるなど,人との接触の機会が多く,人に容易になれるが,危害を加える相手にはきわめて用心深い。

 アライグマには近縁種が多い。アライグマ属にはアライグマのほかコスタリカ南部のカニクイアライグマP.cancrivorusなど約6種があり,カナダ南部から中央アメリカに生息する。また,属は異なるが,同科で尾にアライグマ同様の縞をもつ種に,合衆国南部とメキシコのオオミミカコミスルBassariscus astutusと合衆国から南アメリカに存するハナグマNasuaがある。さらにメキシコおよび南アメリカのキンカジューPotos flavus,アジアのレッサーパンダAilurus fulgens,ジャイアントパンダ(オオパンダ)Ailuropoda melanoleucaなどもアライグマ科の動物とされるが,レッサーパンダとジャイアントパンダについてはパンダ科とする説も強い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アライグマ」の意味・わかりやすい解説

アライグマ
Procyon lotor; coon; North American raccoon

食肉目アライグマ科。体長 65~90cm。体重 10~20kg。体は灰褐色で全体にずんぐりしており,肢は短い。眼の部分に太い黒色帯があり,めがねをかけたように見える。立耳ととがった鼻をもち,尾は 25cm程度の長さで全体にふさふさしており,暗色の縞が 10本程度ある。木にも登るが,泳ぐのもうまい。木のほらや岩の割れ目に巣をつくる。日中より夜間に多く活動する。カエル,魚など水生動物を好むが,木の実,果実なども食べる。物を洗うようなしぐさをすることから,その名がある。北アメリカと南アメリカの一部に分布する。分布域の南のほうでは冬も活動するが,北方の気温が低い地方では,冬は活動が鈍くなり冬ごもりをする。普通 1産 3~4子。近年,日本ではペットとして移入されたアライグマが逃走し,一部地域で野生化している(→外来生物)。

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百科事典マイペディア 「アライグマ」の意味・わかりやすい解説

アライグマ

食肉目アライグマ科の哺乳(ほにゅう)類。体長40〜60cm,尾20〜40cm。体毛は通常白毛まじりの灰色。カナダ南部〜中央アメリカに分布し,低地〜2500mまでの水辺近くの森林に好んで生息する。ラクーンとも呼ばれている。夜行性で,ザリガニ,カエル,ネズミ,鳥の卵,果実などを食べる。とくに水辺で前脚を使いながらザリガニなどの水生動物をとらえるのを好む。樹洞に巣を作り,単独ですむ。初夏に1〜7匹の子を生む。毛皮は優良である。日本では外来生物法により特定外来生物に指定されている。

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小学館の図鑑NEO[新版]動物 「アライグマ」の解説

アライグマ
学名:Procyon lotor

種名 / アライグマ
科名 / アライグマ科
外来種 / ◎
解説 / 群れで生活します。日本でもペットがにげ出したものが野生化しています。
体長 / 40~60cm/尾長20~40cm
体重 / 6~10kg
食物 / カエル、魚、鳥、ネズミ、果実、木の実、カニ
分布 / カナダ南部から中央アメリカ

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世界大百科事典(旧版)内のアライグマの言及

【毛皮】より

…黒に近い暗褐色から淡い粘土色まで毛色には幅があるが,たいてい銀色の刺毛が散在していて,美しい光を放つ。 ラクーンraccoonアライグマの毛皮。北アメリカ産でタヌキに似ているが,しりにリング状の縞がある。…

※「アライグマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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