過去、現在の分布域から、人為的に域外に導入されて、そこで野生化した動物・植物をはじめすべての生物を外来生物という。外来生物は古くは「帰化生物」とよばれていたし、「移入生物」ともよばれていた。外来生物を種単位でいえば、「外来種」である。
外来生物は、導入から野生に放したり栽培・移植したりすることまで、すべて意図的になされた種や、飼育・ペットなど人の管理下に置く目的で導入されながら逃げ出したり捨てられたりした種など、きわめて多様である。
外来生物は、本来そこにいた在来生物(種単位でいえば「在来種」)との間に摩擦、競合、交雑などを生じて、生態系を攪乱(かくらん)し、生物多様性に不可逆的で深刻な打撃を与えかねない。動物に限定していえば、近代から現代にかけての種の絶滅のもっとも大きな原因は「狩猟」「生息地の破壊」などをしのいで、「外来種」であるという分析もある。
外来生物による環境破壊を食い止めることは地球規模の課題となっており、生物多様性条約(1993年発効)では、締約国に害をなすおそれのある外来種の導入防止や撲滅を義務づけている。
近年、日本でも外来生物は問題化しており、哺乳(ほにゅう)類では奄美(あまみ)大島、沖縄本島のジャワマングース、北海道、東京都ほか多数の府県にみられるアライグマ、鳥類ではソウシチョウ、ガビチョウ、魚類では全国的に放流されたオオクチバス、コクチバス、ブルーギル、爬虫(はちゅう)類ではミシシッピアカミミガメ、カミツキガメ、小笠原(おがさわら)諸島のアノールトカゲなど、植物では外来種タンポポ、セイタカアワダチソウ、オオブタクサ(クワモドキ)、ケナフ、コカナダモ、オオカナダモなどが知られているが、氷山の一角にすぎない。
2005年(平成17)6月1日、ようやく外来生物法(正式には「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」)が施行された。
[永戸豊野]
生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害(被害の可能性)のある外来生物は、「特定外来生物」として、159種類が指定されている(2023年9月現在)。特定外来生物は、飼養、栽培、保管、運搬、輸入といった取扱いが規制され、その防除が行われる。特定外来生物に指定されるのは、生きているものに限られ、個体だけではなく、卵、種子、器官なども含まれる。
特定外来生物とは別に、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼす疑いがあるか、実態がよくわかっていない外来生物は「未判定外来生物」に指定され、輸入する場合は事前に主務大臣に届け出る必要がある。また、特定外来生物と外見がよく似ていて、すぐに判別することが困難な生物は「種類名証明書の添付が必要な生物」といい、外国の政府機関などが発行した、その生物の種類名が記載されている証明書を輸入の際に添付しなければならない。
[編集部 2024年1月18日]
『沖山宗雄・鈴木克美編『日本の海洋生物――侵略と攪乱の生態学』(1985・東海大学出版会)』▽『桐谷圭治編『日本の昆虫――侵略と攪乱の生態学』(1986・東海大学出版会)』▽『矢野悟道編『日本の植生――侵略と攪乱の生態学』(1988・東海大学出版会)』▽『チャールズ・S・エルトン著、川那部浩哉・大沢秀行・安部琢哉訳『侵略の生態学』(1988・思索社)』▽『鷲谷いづみ・森本信生著『エコロジーガイド 日本の帰化生物』(1993・保育社)』▽『中村一恵著、谷口高司画『帰化動物のはなし』(1994・技報堂出版)』▽『川道美枝子・岩槻邦男・堂本暁子著『移入・外来・侵入種――生物多様性を脅かすもの』(2001・築地書館)』▽『日本生態学会編『外来種ハンドブック』(2002・地人書館)』▽『秋月岩魚著『ブラックバスがメダカを食う――日本の生態系が危ない!』(宝島社新書)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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