日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルプス人」の意味・わかりやすい解説
アルプス人
あるぷすじん
Alpine race
コーカソイド(白色人種系)の枝となる一亜人種。アルプス人種ともよばれる。東西にわたるヨーロッパの中央地帯に分布するが、この地帯はアルプス地帯にもほぼ一致するので、この名がある。その特徴は短頭とやや濃色の目と毛髪で表される。毛髪は褐色あるいは栗(くり)色。目の色は褐色であるが、より明色の者も少なくない。皮膚は白色であるが、北欧人よりも色素沈着が若干濃い。頭は非常に短く(前後に短く、上から見ると丸い頭)、頭長幅示数は85~87。額は広く、高い。鼻は狭いが、比較的短い。顔は幅広く、丸顔もしくは四角ばっている。ひげや体毛は多い。身長は中程度。ずんぐりとして、太り気味。胴はコーカソイドとしては長く、四肢は比較的短いが、手足は大きい。フランス中部、スイス、南ドイツ、北イタリア、ボヘミア、ハンガリーなどに多く住むが、今日のヨーロッパでは移住や混血が多いため、人種特徴や分布は画然としたものではなくなってきている。
しかし、ヨーロッパ中央部は、北から南下していくと、長頭が短頭になり、アルプスを越えると、ふたたび長頭が多くなるところから、アルプス人はその短頭の頂点として知られている。ヨーロッパの旧石器、中石器時代には、ほとんどのものが長頭であったので、アメリカの人類学者C・S・クーンは、石器時代フランスにいた住民のなかの短頭者の子孫が急速に増加したのだと考えた。しかし、発掘調査によると、歴史時代になってからの短頭化現象が代々の人骨にみられるため、クーンの説はあたらないという考えもある。
[香原志勢]