内科学 第10版 の解説
アレルギー性疾患の薬物療法(アレルギー性疾患)
(1)免疫反応の概論
生体は環境に存在する種々の感染性微生物をはじめとする攻撃因子に囲まれて生存している.そのような状況で生存するために,生体には攻撃因子を排除する防御機構が備わっており,その中心をなすのが免疫反応である.免疫反応には自然免疫(innate immunity)と獲得免疫(acquired immunity)という2種類の応答系がある.アレルギー性疾患に関連するのは獲得免疫で,いわゆる排除する攻撃因子に特異的な免疫応答である.獲得免疫には,大きく液性免疫と細胞性免疫がある.両者に共通するのは,排除の対象を抗原分子として提示する抗原提示のステップがあり,最終的な免疫反応が抗原特異的であることである.
(2)アレルギーの病態に基づく薬物療法
a.Ⅰ型アレルギーによるアレルギー性疾患
IgE抗体の関与する病態であり,症状に関与する化学伝達物質の作用を抑制する薬物,マスト細胞から化学伝達物質の遊離を抑制する薬物,IgEの産生を抑制する薬物,IgEそのものの作用を抑制する薬物,さらにI型アレルギーで惹起される好酸球性炎症を抑制する薬物,血圧低下や気道収縮などへの対症療法のための薬物などが用いられる(表10-22-2).
i )化学伝達物質の作用抑制薬
マスト細胞や好塩基球から遊離される種々の化学伝達物質のうちヒスタミンとロイコトリエンに対する受容体拮抗薬が用いられる.
ヒスタミン(histamine)の抑制にはH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)が用いられる.抗ヒスタミン薬は,ヒスタミンによる鼻汁やくしゃみ,皮膚や粘膜の瘙痒感,充血や浮腫などを抑制する.抗ヒスタミン薬には,第1世代と第2世代がある.第1世代は,より即効性であるが中枢抑制作用(眠気)や抗コリン作用(口渇,眼圧上昇)が第2世代より強く,症状発現時の頓服や眠前の投与に適している.一方第2世代は,中枢抑制作用や抗コリン作用は軽減されているが,フェキソフェナジンとロラタジン以外は中枢抑制作用への配慮が求められている.また第2世代の薬剤は,即効性では第1世代より劣るが,持続時間が長く化学伝達物質遊離抑制作用やアレルギー性炎症抑制作用を有し連用により有効性が高まる.
ロイコトリエン(leukotriene:LT)のなかではLTC4,LTD4,LTE4からなるシステニルロイコトリエンが関与しており,その受容体であるcys-LT1受容体に対する拮抗薬が治療に用いられる.気管支喘息とアレルギー性鼻炎に適応があり,アレルギー性炎症,鼻閉,ロイコトリエンによる気道収縮などを抑制する.また連用で鼻汁やくしゃみも改善する.
ほかの化学伝達物質では,トロンボキサンA2に対する抑制薬として合成阻害薬と受容体拮抗薬が気管支喘息に適応となっている.
ⅱ)化学伝達物質遊離抑制薬
マスト細胞や好塩基球からの化学伝達物質遊離を抑制するもので,抗ヒスタミン作用のないものを分類している.歴史的にはクロモグリク酸ナトリウム(DSCG)が最初である.第2世代抗ヒスタミン薬の多くも本抑制作用を有している.経口薬と種々の局所用剤があり,薬剤投与経路(薬物伝達システム,DDS)を考慮して疾患に応じて使い分ける.
ⅲ)IgE産生抑制薬
IgEの産生を十分に抑制する薬剤はないが,IgEの産生が亢進する背景にあるTh2細胞の機能を抑制する薬剤としてスプラタストトシル酸塩があり,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性皮膚炎に適応となっている.
ⅳ)IgE機能抑制薬
IgEの機能を抑制する薬剤として,IgEが細胞膜上のIgE受容体に結合するのを阻止する薬剤がある.IgEがIgE受容体に結合するIgEのH鎖(heavy chain)にある3番目の定常部(constant domain),Cε3に対するマウス単クローン抗体をヒト化した抗ヒトIgE抗体で,難治性喘息に適応となっている.アレルギーの治療薬として最初の生物製剤である.
ⅴ)好酸球性炎症抑制薬
好酸球性炎症を最も効果的に抑制する薬剤が副腎皮質ステロイドである.経口薬,注射用製剤,吸入薬,点鼻薬,眼科用剤,皮膚科用剤など種々の剤型がある.基本的には病態を考慮した局所用剤を選択し,長期的な維持治療薬(長期管理薬)として用いる.また全身投与は原則として間欠投与とし,維持するときは必要最少量とする.好酸球は通常副腎皮質ステロイドに感受性が高く,好酸球増加は全身投与後およそ5時間で抑制される.
ⅵ)その他の薬物療法
I型アレルギーの重篤な症候として,アナフィラキシーがある.特にアナフィラキシーショックは,皮膚や粘膜の瘙痒感や浮腫,呼吸困難,喘鳴などのアナフィラキシー反応に血圧低下を伴う重篤な病態であり,速やかにアドレナリンを投与する.アナフィラキシー反応の状態での初期治療は,抗ヒスタミン薬と副腎皮質ステロイドの投与であるが,呼吸困難がみられ上気道からの喘鳴(stridor)があればアドレナリンを投与する.
アトピー性皮膚炎では,ドライスキンに対するスキンケア用製剤のほか,難治例で免疫抑制薬であるタクロリムス水和物の軟膏が用いられる.正常の皮膚からは吸収されず,顔面などのステロイド外用薬で副作用の出やすい部位や効果のみられない部位に用いる.
b.Ⅰ型以外のアレルギー性疾患の薬物療法
いずれの病態も十分な免疫抑制を必要とすると考えられ,通常はリンパ球機能への直接的な抑制効果のある高用量の副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン1 mg/kgが目安)で治療を開始する.また緊急性がある場合にはパルス療法(通常メチルプレドニゾロン1 g/日を3日間)が施行される.さらに副腎皮質ステロイドで治療効果が不十分な状態では,免疫抑制薬としてシクロホスファミド,アザチオプリン,シクロスポリンなどが併用される.状態の安定とともに副腎皮質ステロイドを慎重に減量し,併用薬とともに維持量を継続する. ただし,たとえば甲状腺機能亢進症のように免疫学的治療によらない病態もあり,疾患ごとの治療に関する詳細は,各疾患の項目を参照されたい.[大田 健]
■文献
宮本昭正監修:臨床アレルギー学 改訂第3版,南江堂,東京,2007.
日本アレルギー学会:アレルギー疾患診断・治療ガイドライン2010,協和企画,東京,2010
山本一彦編著:シミュレイション内科 リウマチ・アレルギー疾患を探る,永井書店,大阪,2005.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報