改訂新版 世界大百科事典 「アンサール」の意味・わかりやすい解説
アンサール
anṣār
〈助ける人〉を意味するアラビア語で,一般に預言者ムハンマド時代のメディナの住民をいう。622年のムハンマドの移住(ヒジュラ)以前,メディナのアラブ人社会は内戦状態にあった。ごく少数の人々がムハンマドの宗教を受け入れ,彼を招くことによって内戦状態を終結しようと行動し,これがしだいに多数の人々の共感を得て,ヒジュラが実現した。当初は,積極的なアンサールは数のうえでは少数派であったが,ヒジュラ後6年の初めごろには,メディナの住民の大多数はアンサールになった。メッカなど外部からの移住者(ムハージルーン)とともに,ムハンマドの指導する教団国家の構成員であったが,両者の間には微妙な対立があった。ムハンマドの死の直後,アンサールは独自に指導者を擁立しかけたが,結局はムハージルーンの一人であるアブー・バクルのカリフ位を承認した。アンサールの子孫は,氏族名を名のることより,単にアンサーリーanṣārīと称することが多い。
執筆者:後藤 晃
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報