ボコ・ハラム(読み)ぼこはらむ(英語表記)Boko Haram

翻訳|Boko Haram

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボコ・ハラム」の意味・わかりやすい解説

ボコ・ハラム
ぼこはらむ
Boko Haram

ナイジェリアを拠点とするイスラム過激派。ボコは現地ハウサ語で「西洋式の教育」、ハラムはアラビア語で「罪」「禁忌」の意味で、「西洋式教育は罪」を意味する名称である。別称は「宣教及びジハードを手にしたスンニー派イスラム教徒としてふさわしき者たちJama'atu Ahlu-Sunna Lidda'awati Wal-Jihad」で、「ナイジェリアのタリバン」と自称している。厳格なイスラム法の施行と西洋式教育の否定などを標榜(ひょうぼう)してナイジェリア政府打倒を掲げ、政府施設、軍施設、警察署、刑務所、国連施設、西洋式教育を行う学校、酒場、キリスト教施設などへの襲撃爆破暗殺誘拐などのテロ攻撃を繰り返している。ボコ・ハラムに批判的なイスラム指導者、モスクやイスラム神学校などを攻撃することもある。2014年4月には、ナイジェリア北部ボルノ州で学校を襲撃して女子生徒200人以上を拉致(らち)、誘拐し、「強制結婚させるか、奴隷として売り飛ばす」などといった脅迫ビデオ映像を公開して世界的な非難を浴びた。

 1990年代に設立されたイスラム教学習グループが前身組織とされ、2002年ごろに同グループの分派組織としてナイジェリア北部で結成された。創設者のモハメド・ユスフMohammed Yusuf(1970―2009)はナイジェリア治安当局に拘束され、2009年に殺害された。その後、2010年にアブバカル・シェカウAbubakar Shekau(1969?―2021)が指導者の地位について以降、テロ活動が過激化した。メンバーは数百人規模とされるが正確な人数は不明で、ナイジェリア国内のイスラム武装勢力による緩やかな連合体とみられている。欧米などに隠れているイスラム過激派支持者からの資金や誘拐の身代金などが資金源とされる。

 2012年以降、ナイジェリア政府が掃討作戦を強化したが、貧困層の若者らにイスラム原理主義思想を植えつけて増殖するボコ・ハラムに対する鎮圧の有効な手だては講じられていない。アメリカ政府は2013年11月にボコ・ハラムをテロ組織に指定。また、国連安全保障理事会の国際テロ組織アルカイダに対する制裁委員会は、2014年5月にボコ・ハラムを資産凍結や武器・資金提供を禁止する制裁対象リストに加えた。アルジェリアを中心に活動するイスラム過激派「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」とも武器供与や武装訓練などで関連があるとされ、隣国カメルーン、チャド、ニジェールなどにも勢力を広げている。ボコ・ハラムがテロ活動を繰り返す背景には、ナイジェリア北部にイスラム教徒、同国南部にキリスト教徒が多く住むという宗教上の問題のほか、ナイジェリア北部の経済発展が南部に比べ遅れているという南北格差問題があるとされる。

[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ボコ・ハラム」の意味・わかりやすい解説

ボコ・ハラム
Boko Haram

ナイジェリアを拠点とする,スンニー派イスラムの攘夷主義運動。2002年にナイジェリア北部で,「西洋の教育は罪」の意の現地語を冠して創設され,土着色が強い。別称「宣教及びジハードを手にしたスンニー派イスラム教徒としてふさわしき者たち」Jamā`at Ahl al-Sunna lil-Da`awah wa al-Jihād。2009年頃からその戦闘性がきわだち始め,政府軍や州警察との武力衝突が拡大していった。北部での勢力伸長の背景には,キリスト教徒の多い裕福な南部諸州との経済格差に対する強い忿懣がある。隷下の実力部隊は基本的に移動を常としてゲリラ戦を展開し,制圧地域には厳格なイスラム法の適用を強制する。襲撃目標にはキリスト教徒居住地域の学校や病院を選ぶことが多かったが,2011年以降,攻撃の対象はより幅広くなり,政治家や宗教指導者,治安部隊,民間施設なども頻繁にねらわれるようになった。南西部の都市ラゴスで警察本部や国際連合事務所が自爆テロの標的とされるなど,ボコ・ハラムのゲリラ活動が猖獗をきわめるにいたって,グッドラック・ジョナサン大統領は 2013年5月,北部 3州に非常事態宣言を発令,対決姿勢を強めた。2013年11月,アメリカ合衆国はボコ・ハラムを「外国テロ組織」に指定した。2014年4月,北部ボルノ州チボクの女学校を襲撃して 300人内外の女生徒を拉致した事件で国際的な注目を浴びたが,この運動の指導者や統制系統には多々疑義が残り,交渉相手が判然としないこともあって解決をみていない。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android