改訂新版 世界大百科事典 「アンソクコウノキ」の意味・わかりやすい解説
アンソクコウノキ
benzoin tree
gum benzoin
Styra×benzoin Dryand.
香料や薬の原料として知られるエゴノキ科の高さ15mに達する常緑の高木。樹皮は茶褐色。葉は互生して柄があり,卵形ないし長楕円形,縁に細かい鋸歯がある。夏に葉のつけ根に,赤みをおびた白い小さな花が集まってつく。果実は球形で,径約1cm,白い毛がある。タイ,マレー,スマトラなど東南アジアに生じ,栽培もされ,S.paralleloneurum Perk.など安息香を産出する二,三の近縁種がある。
執筆者:山中 二男
薬用
安息香はアンソクコウノキのほかに,S.paralleloneurum(スマトラ産),S.tonkinensis(タイ産)などの幹に傷をつけて得られる樹脂で,市場品は各種のダマール,コパールなどの安い樹脂と混合されたブレンドベンゾインである。基原植物は産地によって異なるし,樹脂の品質は基原植物および樹齢,浸出時期や段階などによって異なっている。最良品はスマトラ産のS.paralleloneurumの樹幹を傷つけて最初に浸出する乳白色の樹脂である。これを採取した後さらに放置しておくと,黄色から褐色透明な樹脂が得られる。アンソクコウノキおよびそれとS.paralleloneurumとの自然交配種と思われるものから得られる樹脂は,いずれも黄色から褐色の樹脂である。ブレンドベンゾインはケイ皮酸,安息香酸とベンゾレジノール,コニフェリルアルコールとのエステル,バニリンなどを含む。安息香は刺激性去痰薬で,呼吸粘膜を直接刺激するため,口中の痰,唾液(だえき)などを排出させる。また腹痛やリウマチなどの鎮痛剤として用いられ,慢性潰瘍に外用する。防腐剤,香料,薫香料などとしても用いられる。
執筆者:新田 あや
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報