アンドラ(読み)あんどら(英語表記)Andorra

翻訳|Andorra

精選版 日本国語大辞典 「アンドラ」の意味・読み・例文・類語

アンドラ

  1. ( Andorra ) フランススペインの国境ピレネー山脈の東部南斜面にある小独立国。一二七八年以来、フランス元首とスペインウルヘル司教を共同君主として、フランス・スペインの共同主権下にあったが、一九九三年に独立した。首都アンドラ‐ラ‐ベリャ。観光地として有名。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンドラ」の意味・わかりやすい解説

アンドラ
あんどら
Andorra

フランスとスペインの国境をなすピレネー山脈の東部南斜面に位置する小独立国。日本ではアンドラ公国が正称。フランス語ではアンドールAndorreという。各国の正称はValls d'Andorra(スペイン語)、Les Vallées d'Andorre(フランス語)、政体を付した正称はCo-Principat d'Andorra(スペイン語、アンドラ共治公国の意)。面積468平方キロメートル、人口8万2000(2006国連推計)。首都アンドラ・ラ・ベッリャ

 ピレネー山脈の南を南東流するエブロ川の支流セグレ川の、さらに支流であるバリラ川の上流域を中心に広がる。平坦(へいたん)地は、狭い谷沿い、および高所の氷河谷である圏谷(カール)底にわずかにあるのみで、周りを2000~3000メートルの山々に囲まれており、最高地点は西部のコマ・ペドローザ山(2946メートル)である。フランスに抜ける唯一の整備された自動車道が国境のエンバリラ峠(2407メートル)を越えて通じている。この峠より7.5キロメートルほど西のアンドラ国内にある村ソルデューSoldeuは、イベリア半島で最高所(1825メートル)に位置する村である。気候は寒冷で厳しく、1月の平均気温は零下13℃、1600メートル以上は4~5月まで雪があり、峠も半年以上は雪で閉ざされる。

 9世紀以来、領主ウルゼル伯の相続人であるフランスのフォア伯と、ウルゼル伯からアンドラ6教区を寄進されたスペインのウルゼル司教とが、アンドラの領有に関して争い、1278年に共同君主となることに定められた。フォア伯の領有権はフランス王、フランス大統領と受け継がれ、他方、ウルゼル司教はローマ教皇の支配下にあり、国際上の存在ではないため、19世紀以来フランスが保護領として外交を代行してきた。しかし、1993年に新憲法が施行され、両元首に外交と治安の象徴的権利を残して独立した(外交上両元首の利害にかかわることのみ承認が必要である)。国会は4年の任期で、7教区(パリッシュ)から各4名、合計28名が選出され、首相は国会が指名する。1993年には国連に加盟し、さらに1996年には欧州安保協力機構(OSCE)にも加盟した。日本は1993年に承認、1995年に外交関係を樹立、2005年1月にはフォルネ首相が来日している。しかし司法はなお両元首に依存する。民事裁判の場合には、一次の裁判は原告の選択による両元首のいずれかが判事を任命し、上訴審は5年ごとに両元首が交互に任命する判事によって行われ、最終審はフランスのペルピニャン高裁またはウルゼル司教の最高裁で行われる。また司法裁判の場合には、控訴審判事、議会の任命する2名の報告者、検事総長、両元首が5年ごとに交互に任命する代表から構成される法廷が監理する。

 住民の3分の2は外国人、とくにスペイン国籍のカタルーニャ人で、国語はカタルーニャ語、公式宗教はカトリックである。主産業は牧畜(ヒツジ、ウシ、ウマなど)と農業(果物、小麦など)で夏には谷底の冬の家を出て高所に移動する移牧が行われる。しかし耕地は国土の約2%にすぎず、食料は輸入に依存している。国家経済を支えているのはピレネーから周囲に電波を送るラジオ放送の広告収入、切手収入(2002年1月、通貨にユーロが導入されるまでフランとペセタの2種類で発行されていた)、年間1200万人に達する避暑やスキーや登山に訪れる人々と無関税商品を求める買い物客の観光収入である。

[田辺 裕・滝沢由美子]

『田辺裕監修『世界の地理9 フランス』(1999・朝倉書店)』


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改訂新版 世界大百科事典 「アンドラ」の意味・わかりやすい解説

アンドラ
Andorra

基本情報
正式名称=アンドラ公国Principat d'Andorra 
面積=468km2 
人口(2010)=9万人 
首都=アンドラ・ラ・ベリャAndorra la Vella(日本との時差=-8時間) 
主要言語=カタルニャ語(公用語),フランス語,スペイン語 
通貨=フランFranc(フランスと共通),ペセタPeseta(スペインと共通)(1999年1月よりユーロEuro)

ピレネー山脈東部に位置し,フランスとスペインの国境に挟まれた公国。山岳地帯であるため森林資源には恵まれ,水力発電エネルギーはフランス,スペイン両国へ送られている。農産物は,標高約1000mまでオリーブやブドウが,1500mまではタバコやトウモロコシが栽培されており,1700m以上の高地になると牧畜業が営まれている。また,スキー場,観光保養地としても知られ,外国産品が無税のために商業活動も盛んである。

アンドラの起源は明らかではない。819年に,それまで支配していたフランク王国がスペインのウルヘル司教へ主権を譲与し,その後,司教の封臣となったカンブエット家が条件付きで統治を委託された(1110)。ところが,13世紀に同家の後を引き継いだフォア家が司教の意向を無視した統治を行ったために,双方の間に対立が生じた。1278年,アラゴン連合王国のペドロ3世の仲介によって双方は和解し,共同主権の下にアンドラを置くことが取り決められた。それ以後,フォア家の権利は,ナバラ王国,フランス王国へと移り,1993年まではスペインのウルヘル司教とフランスが共同して主権を有する公領であったために,アンドラは中世の時代を色濃く残した稀有な存在であり続けた。

 1980年代になると独立を求める声が高まり,93年3月,名誉職としての権限をウルヘル司教とフランス大統領に残しつつも,実質的には国民主権を銘記した新憲法草案が住民投票にかけられた。結果は,約73%の賛成で承認され,独立を達成した。日本は,1993年12月に国家承認をし,95年10月に正式な外交関係を樹立した。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アンドラ」の意味・わかりやすい解説

アンドラ
Andorra

正式名称 アンドラ公国 Principat d'Andorra。
面積 468km2
人口 7万8300(2021推計)。
首都 アンドララベラ

ヨーロッパ南西部,イベリア半島北東部,ピレネー山脈東部の小国。バリラ川の二つの支流の谷に位置する。北部と東部はフランスアリエージュ県ピレネーゾリアンタル県,南部および西部はスペインレリダ県に囲まれる内陸国。カタルニャ系住民が多く,公用語はカタラン語(カタルニャ語)。高峻なピレネーの山々(2000~3000m)に囲まれ,気候は寒冷で厳しく,首都でも 1ヵ月間雪に覆われる。5月,6月,10月に降水量が多い。フランスとスペインの領土権をめぐる争いののち,1278年の和約により,フランスのフォア伯とスペインのウルヘルの司教とが共同統治者となる。フォア家の権限はその後,アンリ4世の即位(1589)によりフランス国王に渡り,以後フランスとスペインが共同主権を握っていたが,1993年2月アンドラ公国総評議会が国民主権を明記した憲法草案を可決,建国以来の封建統治体制を脱却することになった。ヨーロッパ連合 EUには加盟していないが,通貨はユーロを使用する。国民からの徴税はなく,歳入の約 90%を観光が占める。主産業はタバコ,コムギ,ライムギ,ジャガイモの栽培と牧羊。ウマ,ラバ,ウシ,ヤギも飼育。冬の家畜の飼料はスペインとの国境付近で開かれる大規模な秋市で購入する。小量の銀,鉛,鉄鉱石を産出するが,工業は小規模。レスエスカルデスに水力発電所があるが,スペインから電力を輸入している。第2次世界大戦後,フランスおよびスペインへ通じる道路が改修され,スキーなどの観光事業が急速に発達した。鉄道,航空路はないが,郵便,電信事業はフランスに委嘱。全ヨーロッパ向け放送局がある。南部のマドリュウ=ペラフィタ=クラロー渓谷は 2004年世界遺産の文化遺産に登録された。

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百科事典マイペディア 「アンドラ」の意味・わかりやすい解説

アンドラ

◎正式名称−アンドラ公国Principat d'Andorra/Principality of Andorra。◎面積−464km2。◎人口−7万6000人(2013)。◎首都−アンドラ・ラ・ベリャAndorra la Vella(2万2546人,2013)。◎住民−大部分がスペイン系カタルーニャ人。◎宗教−カトリック(約94%)。◎言語−カタルーニャ語(公用語),スペイン語,フランス語。◎通貨−ユーロEuro。◎元首−フランス大統領とスペインの小都市ウルヘルの司教が,象徴的な共同元首をつとめる。◎首相−マルティ・プティMarti Petit(2011年5月就任,2015年4月再任)。◎憲法−1993年5月公布。◎国会−一院制(定員28,任期4年)。2015年3月選挙結果,民主党15,自由党8など。◎GDP−30億9100万ドル(2005)。◎1人当りGDP−4万6029ドル(2005)。◎農林・漁業就業者比率−0.7%(1996)。◎平均寿命−男78歳,女85歳(2006)。◎乳児死亡率−3‰(2010)。◎識字率−100%。    *    *ピレネー山脈東部の谷間,フランス,スペイン国境にある公国。住民は大部分スペイン系のカタルーニャ人でカタルーニャ語を話す。1278年フランスのフォア伯とスペインの小都市ウルヘルの司教との共同主権下に自治を認められ,のちにフォア伯の権限はフランス政府が引き継いだ。観光収入が主財源。1993年新憲法を制定し,独立国家として認められ,国連にも加盟。日本は1993年12月国家承認,1995年10月外交関係を樹立した。EUには未加盟,WTOに加盟申請中。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「アンドラ」の解説

アンドラ
Andorra

フランスとスペインの国境,ピレネー山脈にある小国。9世紀に独立し,13世紀以来フランス王とスペイン北東部カタルニャのウルジェイ司教の共同宗主権のもとに置かれたが,1993年新憲法によって国民主権を明記して国際連合へも加盟した。公用語はカタルニャ語だが,スペイン語,フランス語も通用する。

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世界大百科事典(旧版)内のアンドラの言及

【保護国・被保護国】より

…インドは,1950年のシッキムとの条約でイギリスの立場を承継したが,75年,シッキムはインドの一州となった。被保護国が現存するかどうかであるが,ピレネー山脈の中にある小国アンドラは,フランス,スペイン両国の共同保護権の下にあるとしてよさそうである。宗主国・従属国【松田 幹夫】。…

※「アンドラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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