日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンドレス」の意味・わかりやすい解説
アンドレス
あんどれす
Stefan Andres
(1906―1970)
ドイツのカトリック作家。トリール近郊の農村に生まれる。司祭を志して修道院学校に学び、転じてケルン大学などで神学、美術史、ドイツ文学などを研究した。ドグマと真理探究心と人間愛の葛藤(かっとう)がテーマの『エル・グレコ大審問官を描く』(1936)や、スペイン内戦を舞台に背教僧の特異な回心を描く『楽園に死す』(1942)で名声を得、ファシズム、第二次世界大戦、経済の奇跡の時代の諸相を象徴的に叙述する三部作『大洪水』Die Sintflut(1949~1959)のほか、長編十数編、短編五十数編があり、戯曲、ラジオドラマ、詩集もある。豊かな構想力、多彩な人間描写、的確な状況把握、大胆な神学的解釈を特徴とするが、根底には、故郷の、また長年居住したイタリアの民衆に共通する、伝統に根ざした素朴な宗教心がある。『旧約聖書』に題材を求めた作品もいくつかあり、その代表作は『聖書物語』(1965)である。
[人見 宏 2017年11月17日]
『増田和宣訳『聖書物語』(1971・春秋社)』