改訂新版 世界大百科事典 「アーシューラー」の意味・わかりやすい解説
アーシューラー
`āshūrā'
イスラムの祭礼のひとつであるが,スンナ派とシーア派とで非常に異なっている。預言者ムハンマドはヒジュラの後,ヒジュラ暦1月(ムハッラム月)の第10日目を断食潔斎の日と定めたとされ,この日をアーシューラーと呼ぶ。これはユダヤ教のヨーム・キップール(贖罪の日)の断食を模倣したもの。イスラム教団がユダヤ教徒と決別して後は,この戒律は信徒に強制力をもたないものとされた。しかし敬虔なスンナ派イスラム教徒は,アーシューラーの断食潔斎を自発的に行っている。
シーア派では,3代目イマーム,フサインがこの日にカルバラーでウマイヤ朝軍によって虐殺されたのを記念して,盛大な哀悼祭を行う。シーア派の人々はフサインの戦死を殉教とみなし,この哀悼祭の日に彼の殉教の物語を演劇にして再現したり,街頭パレードを行ったりする。シーア派の人々がアーシューラーの日に行うこれら一連の行事は,タージヤta`ziyaと呼ばれている。タージヤにおいては,フサインの棺の模造品やフサインの切断された手の模刻がかつぎ出されたり,参列者が鎖で自分の身体を打ったりする。これらの行事は非イスラム的要素に由来するとみられている。しかし,アーシューラーのタージヤにおいて,シーア派イスラム教徒の宗教感情は最高潮に達し,その宗教的活力が再生させられているのは事実である。アーシューラーの諸行事が,今日シーア派諸国にみられるように盛大に行われるようになったのは,18世紀以後のようで,それ以前のことについては詳しく知られていない。
執筆者:松本 耿郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報