ジョージア(グルジア)の小説家。ジョージアのアブハジア自治共和国スフーミに生まれ、1954年モスクワのゴーリキー文学大学を卒業。初期には『山の道』(1957)や『緑の雨』(1960)など、みずみずしい感性にあふれた詩集も書いたが、その才能がいかんなく発揮されたのは故郷アブハジアを舞台にした一連の小説においてである。作品の多くは自伝的で、アブハジアの人々の生活をユーモアたっぷりに描いている。アブハジアを舞台に、当時のソ連の農業政策に翻弄(ほんろう)される人々の姿を悲喜劇的に描いた『牛山羊(うしやぎ)の星座』(1966)が初期の代表作だとすれば、生涯の傑作は、1960年代後半から1980年代末まで書き継がれた連作小説『チェゲムのサンドロおじさん』(1973~1988)であろう。悪漢小説に出てくる主人公のようなサンドロを縦糸に、革命前から現代までのアブハジア人の生活と歴史を逸話的な語りに封じ込めたこの長大な作品は、ガルシア・マルケス『百年の孤独』(1967)と並んで20世紀小説の白眉(はくび)とされる。このほか、ソ連体制が作品に暗い影を落とす政治風刺小説『うさぎとうわばみ』(1982)や、レーニンを扱った『人間とその周辺』(1995)、『チークの一日』(1971)など少年チークを主人公にしたのびやかでユーモラスな連作小説がある。またソ連崩壊後の存在の不安を真っ正面から取り上げた『プシャダ』(1993)は作家の転機を知るうえでも重要な作品。
[浦 雅春]
『狩野亨訳『チークの一日』(1977・冨山房)』▽『浦雅春訳『牛山羊の星座』(1985・群像社)』▽『浦雅春・安岡治子訳『チェゲムのサンドロおじさん』(2002・国書刊行会)』
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