改訂新版 世界大百科事典 「イトトンボ」の意味・わかりやすい解説
イトトンボ (糸蜻蛉)
トンボ目均翅亜目イトトンボ科Agrionidaeの昆虫の総称。小型の種類は俗にトウスミトンボと呼ばれる。日本からは27種が知られ,体長約2cmのヒメイトトンボAgriocnemis pygmaeaからオオセスジイトトンボCercion plagiosumの体長約4.5cmまであり,いずれも湿地,水田,池沼などの停水に育つもので,急流や深い河川には見られない。コフキヒメイトトンボA.femina oryzaeは琉球諸島および九州,四国と山口県の低地だけに見られる。ヒヌマイトトンボMortonagrion hirosei(1971年に茨城県の涸沼で発見された)は塩分を含んだ本州の大きな川や海岸の塩湖にだけ発見された日本特産種,ホソミイトトンボAciagrion migratumはこの科で唯一の成虫越冬種,カラカネイトトンボNehalennia speciosaは北海道,東北地方の湿原と尾瀬ヶ原だけに,エゾイトトンボAgrion lanceolatum,キタイトトンボA.ecornulumは北方の高地種で東部シベリアと共通種である。キイトトンボCeriagrion melanurum,ベニイトトンボC.nipponicum,モートンイトトンボMortonagrion selenionは本州以南に見られる平地種で,中国の中部にも産する。これらのうちもっともふつうなのは,アジアイトトンボIschnura asiaticaとアオモンイトトンボI.senegalensis,クロイトトンボCercion calamorumで,アジアイトトンボは海洋上を移動することも知られている。イトトンボ類の幼虫は細長いきゃしゃな水生昆虫で,尾端にある3個の尾鰓(びさい)で水中での呼吸を行う。大多数の種類は1年1世代であるが,南日本では上記の普通種などでは年に2回出現することがある。雄の成熟成虫は水面をすれすれに飛翔(ひしよう)し,交尾し,雌は水面下の植物体に産卵を行う。なお,広義には均翅亜目のうちカワトンボ群のものを除いた小型細身のアオイトトンボ科,モノサシトンボ科なども含む。
執筆者:朝比奈 正二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報