出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
狂言の曲名。鬼狂言。〈アサイナ〉と発音する。娑婆の人間が賢くなり,仏道に帰依して極楽へ行くので地獄が飢饉となり,閻魔王は自身六道の辻へ出て罪人を捕らえて地獄に責め落とそうとする。そこへ,武勇を誇る朝比奈(三郎)義秀が来合わせたので,閻魔は責めたてるが,朝比奈は動じない。和田合戦の話をせよというと,朝比奈は合戦の様子を語りながら閻魔を手玉にとり,七つ道具を持たされた閻魔は,朝比奈を極楽浄土へ案内するはめになる。朝比奈地獄巡りの説話を脚色した狂言といわれ,朝比奈の剛勇と閻魔の弱さとの対照が倒錯的な笑いを誘う。朝比奈の語る和田合戦の物語は,平曲や太平記読みにも通じる合戦談。シテは朝比奈だが,閻魔にもシテに匹敵する技量が要求される。古作の狂言。
執筆者:羽田 昶
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
狂言の曲名。鬼狂言。仏教大流行の当世、人間どもが極楽にばかり行くので、すっかり飢饉(ききん)に陥った地獄の主、閻魔(えんま)王(武悪(ぶあく)の面を使用)は自ら六道の辻(つじ)に出て、亡者が通れば地獄へ送り込もうと待ち構えている。そこへ、大竹をつき、血のにおいをぷんぷんさせた亡者が通りかかる。閻魔はさっそく地獄に追い落とそうと責めるが、とても歯がたたない。それも道理、相手は武将の朝比奈三郎(シテ)である。閻魔は突き転ばされ、手柄話をさんざんに聞かされたあげく、極楽への道案内をさせられてしまう。仏教説話などを通して地獄が身近な恐怖であった中世に、閻魔さえもからりと笑い飛ばす庶民の健康な現世主義がバックボーンにある。
[油谷光雄]
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…娑婆の人間が賢くなり,仏道に帰依して極楽へ行くので地獄が飢饉となり,閻魔王は自身六道の辻へ出て罪人を捕らえて地獄に責め落とそうとする。そこへ,武勇を誇る朝比奈(三郎)義秀が来合わせたので,閻魔は責めたてるが,朝比奈は動じない。和田合戦の話をせよというと,朝比奈は合戦の様子を語りながら閻魔を手玉にとり,七つ道具を持たされた閻魔は,朝比奈を極楽浄土へ案内するはめになる。…
…所作事にも秀でたが特に荒事系の劇術に名声を得,初世市川団十郎,初世中村七三郎とともに元禄期江戸劇壇において三幅対の名人と賞される。奴丹前(やつこたんぜん)を能くし,彼の工夫になる〈朝比奈〉には元禄の時代性を示す荒々しくかつおおどかな滑稽があり,奴荒事の真髄が示されている。糸鬢,鎌髭,猿隈,せりふのモサ詞,ならびに素袍の鶴の丸の定紋は今も朝比奈の型として残る。…
※「朝比奈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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