イブンバーッジャ(その他表記)Ibn Bājja

改訂新版 世界大百科事典 「イブンバーッジャ」の意味・わかりやすい解説

イブン・バーッジャ
Ibn Bājja
生没年:?-1139

西方イスラム世界の哲学者。同時に,ムラービト朝ワジール宰相)としても活躍した。ラテン名ではアベンパケAvem(n)paceスペインサラゴサに生まれた。ムラービト朝のワジールであったとき,敵対者たちの手により,モロッコフェスで若くして暗殺されたと伝えられている。《孤独者の嚮導》《人間の目標》等の哲学論文未完のままで残されている。イスラム哲学史においては,イブン・ルシュドに先駆け,〈知性唯一説〉を唱えた人として注目される。彼は哲学から感情的要素を極力排除し,理性の厳密な行使によって,人間は〈能動理性〉との一致境という最高の幸福を達成しうると主張した。神秘思想家の説く感情的陶酔境を嫌い,純理性的澄明平静境を好み,〈孤立tawaḥḥud〉を尊ぶ。孤立して生きることが哲学的生への完成への第一歩であると考えている。彼はアンダルスの主知主義的哲学の伝統の創始者とみなされている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イブンバーッジャ」の意味・わかりやすい解説

イブン・バーッジャ
いぶんばーっじゃ
Abū Bakr Muammad ibn Yayā al-ā'igh ibn Bājja
(?―1138)

イスラム哲学者。ラテン名はアベンパケAvempace。スペインのサラゴサに生まれる。ムラービト朝の宰相として活躍し、政務のかたわらアリストテレス哲学を研究する。人間理性を重視し、霊魂の完成には哲学が不可欠であると説く。哲学的認識を高めていくことで霊魂は純化し、純粋知性の認識が可能となり、人間の最高の幸福が実現するという。彼の主知主義的傾向はイスラム教徒大衆の反感を買い、ついには政敵謀略に陥り、毒殺されたという。

松本耿郎 2016年10月19日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イブンバーッジャ」の意味・わかりやすい解説

イブン・バーッジャ
Ibn Bājjah

[生]1095頃.スペイン,サラゴサ
[没]1139.5. モロッコ,フェス
イスラム時代スペインの哲学者,政治家。ラテン名は Avempace。アリストテレスの理論をよりどころとして合理主義的な哲学思想を展開したが,コーランやイスラムの信条を否定する無神論と非難され,フェスで毒殺された。多くの論文を書いたが,そのほとんどは現存していない。

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