改訂新版 世界大百科事典 「イブンバーッジャ」の意味・わかりやすい解説
イブン・バーッジャ
Ibn Bājja
生没年:?-1139
西方イスラム世界の哲学者。同時に,ムラービト朝のワジール(宰相)としても活躍した。ラテン名ではアベンパケAvem(n)pace。スペインのサラゴサに生まれた。ムラービト朝のワジールであったとき,敵対者たちの手により,モロッコのフェスで若くして暗殺されたと伝えられている。《孤独者の嚮導》《人間の目標》等の哲学論文は未完のままで残されている。イスラム哲学史においては,イブン・ルシュドに先駆け,〈知性唯一説〉を唱えた人として注目される。彼は哲学から感情的要素を極力排除し,理性の厳密な行使によって,人間は〈能動理性〉との一致境という最高の幸福を達成しうると主張した。神秘思想家の説く感情的陶酔境を嫌い,純理性的澄明平静境を好み,〈孤立tawaḥḥud〉を尊ぶ。孤立して生きることが哲学的生への完成への第一歩であると考えている。彼はアンダルスの主知主義的哲学の伝統の創始者とみなされている。
執筆者:松本 耿郎
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