改訂新版 世界大百科事典 「イリフ=ペトロフ」の意味・わかりやすい解説
イリフ=ペトロフ
Il'f i Petrov
合作で活躍したソ連の風刺・ユーモア小説家。ともにオデッサの生れ。イリフIl'ya Il'fは本名ファインジリベルクIl'ya Arnol'dovich Fainzil'berg(1897-1937),ユダヤ系の銀行員の子で新聞記者。ペトロフEvgenii Petrovは本名カターエフEvgenii Petrovich Kataev(1903-42)で,作家V.P.カターエフの弟である。最初の合作長編《十二の椅子》(1928)は,椅子にかくされたダイヤモンド捜しというピカレスク小説ふうの形式に託して,革命後10年のソ連の世相を痛烈に風刺した作品で,ソビエト時代の《死せる魂》といった趣がある。とくにソ連に巣食う新旧の悪人・寄食者どもの弱みを逆手にとって,稀代のペテン事業をつぎつぎと成就させる主人公オスタップ・ベンデルの魅力は痛快そのものといえる。ベンデルの活躍は次作《黄金の子牛》(1931)でもつづき,さらに徹底したその官僚主義風刺は,スターリン時代,2人の本を禁書同然にさせたほどだった。このほか旅行記《一階建てのアメリカ》(1936),短編集《ロビンソンはいかに創られたか》(1933)などの作品がある。
執筆者:江川 卓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報