イーストマン・コダック(読み)いーすとまんこだっく(その他表記)Eastman Kodak Co.

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イーストマン・コダック」の意味・わかりやすい解説

イーストマン・コダック
いーすとまんこだっく
Eastman Kodak Co.

アメリカの写真用品メーカー。カメラフィルムなど写真関連製品のメーカーとして世界最大クラス。通称コダック。本社はニューヨーク州ロチェスター。ジョージ・イーストマンが写真の大衆化を目ざして写真業界に身を投じたのは1880年だが、翌1881年に設立されたイーストマン乾板会社が現在のイーストマン・コダックの最初の姿といってよい。その後幾度かの再編成を経て、1892年に社名をイーストマン・コダックとした。1888年に売り出した小型ボックス・カメラ「ザ・コダック」以来、同社は写真機、写真用品市場で圧倒的な地位を占め、1963年に発売された簡易カメラ「インスタマチック・カメラ」は3年間で2500万台が売れる大ヒット商品となった。また、フィルム・カートリッジなど技術面、新製品開発面でも絶えず同業界の最先端をきっている。しかし、写真用品業界における同社の圧倒的優位も、1980年代に入って外国メーカー、とくに日本メーカーの追い上げが急で、かならずしも安泰とはいえなくなった。ポラロイド、3Mなど国内同業他社との競争も、イーストマン・コダックに対する独占禁止法違反訴訟と相まって激化、1990年にはポラロイドから提訴されたインスタント・カメラに関する特許権侵害の裁判に敗れ、9億2500万ドルを支払った。

 イーストマン・コダックは、主要事業であるカメラ・写真用品のほか、ヘルスケア製品、化学製品(繊維・プラスチック)、薬品など事業分野を拡大してきたが、1980年代から大規模な人員削減を始め、1990年代には中核事業である画像分野に事業の中心を移して非画像分野を分離し、1994年12月期には大半を売却した。なお、1993年に同社の化学品部門がスピンオフ(企業が事業部門などを独立させて子会社の株を買い取り、親会社の株主に分配すること)して設立されたイーストマン・ケミカルEastman Chemical Co.はプラスチック、化学、繊維製品の世界的な大手メーカーとなっている。画像分野においては、1992年にフォトCDデジタルカメラを発売、1996年には新写真システムのアドバンスト・フォト・システム(APS、カメラへの装着と取り出しが簡便で撮影データなどの磁気記録が可能なフィルム様式)を採用したアドバンティックス・カメラを発売した。イーストマン・コダックの画像処理技術は医療分野でも幅広く活用され、1998年にはデータ・画像処理用製品の大手イメーションImation Corp.(1996年7月に3Mより分離独立)から、北アメリカ、ラテンアメリカアジアにおける医療用製品ビジネス部門を取得した。コダックの医療用製品部門はX線写真フィルム、画像診断装置、医療用フィルム現像機などを製造する。イーストマン・コダックの1999年の売上高は140億8900万ドル、純利益は13億9200万ドルに上った。売上高構成比率は一般向け写真製品53%、プロ用フィルム・業務用デジタル製品13%、医療用製品15%、その他写真関連製品19%。海外部門の比率は53%。イギリス、フランス、オーストラリアアルゼンチン、ブラジル、メキシコなどに工場をもち、全世界の約150か国以上で販売活動を行っていた。

 日本では、1986年(昭和61)に長瀬産業の出資によるコダック・ナガセが設立され、コダック製品の国内での輸入・販売を行っている。1996年(平成8)1月、イーストマン・コダックの100%出資会社となり、1998年コダックに社名変更した。

[佐藤定幸・萩原伸次郎]

その後の動き

2007年、イーストマン・コダック社のヘルス事業部はカナダのオネックス社Onex Co.に25億5000万ドルで売却され新会社ケアストリームヘルスCarestream Health Inc.となった。イーストマン・コダック社の2008年度の売上高は24億3300万ドル、赤字額1億3700万ドル。

[編集部]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イーストマン・コダック」の意味・わかりやすい解説

イーストマン・コダック
Eastman Kodak Co.

世界最大の写真用品メーカー。1881年写真の大衆化を夢みたジョージ・イーストマンが,ニューヨーク州ロチェスターに写真乾板の製造会社を設立したことに始まる。1885年からロールフィルム(→写真フィルム),1888年には携帯用カメラ「コダック」を生産し,1892年現社名に変更。1963年に発売した簡易装填カメラ「インスタマチックカメラ」は,たちまち世界市場を席捲,1971年までに 6000万台を売った。その後写真用品のほかに,ビジネス情報製品,ヘルスケアなどの分野に進出し,1988年にはヘルスケア事業でスターリング・ドラッグを買収した。しかし債務縮小のため 1994年にはスターリング・ドラッグをはじめとする医療事業や化学事業を売却,事業の焦点を映像分野に戻すことになった。日本には子会社コダックが設立されている。また日本のカメラメーカー,フィルムメーカーも技術導入している。事業内容は各種フィルム,カメラのほか,プロジェクタ,マイクロフィルム装置,複写機フォトCDシステムにまで及んだが,2012年1月,アメリカ合衆国連邦破産法第11条の適用を申請。同 2012年にはカラーポジフィルム(→カラーフィルム)の製造と販売を終了,フィルム製品の種類は急激に減少している。

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百科事典マイペディア 「イーストマン・コダック」の意味・わかりやすい解説

イーストマン・コダック[会社]【イーストマンコダック】

世界最大の写真用品(フィルム・印画紙・処理剤など)メーカー。1880年米国ニューヨーク州ロチェスターでG.イーストマンが始めた写真乾板製造会社が前身。1892年イーストマン・コダック社を設立。1900年〈ブローニー・ボックスカメラ〉を1ドルで発表し一気に普及させた。その後,ロールフィルム,携帯用カメラ,シネコダック,コダカラー,インスタマチック・カメラなど新製品を相次いで開発。特に1963年に発売したインスタマチック・カメラは世界的に大ヒット。その後もインスタントカメラでは世界で最大手。化学品,AV機器,画像処理ソフトなども生産する。1994年,非映像分野の医療事業を売却したが,デジタル化への本格対応が遅れたことと,日本などの競争企業の米国市場への参入に押され経営不振に陥った。2012年1月,ニューヨーク地裁に連邦破産法の適用を申請,事実上倒産した。
→関連項目写真スーパーエイト8ミリ映画ロチェスター

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知恵蔵 「イーストマン・コダック」の解説

イーストマン・コダック

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