近代社会から現代社会への移行過程において生じた社会形態の構造的転化の現象。大衆massの登場によって生ずる社会自体の拡散化をいう。また、ある事物や事柄が、一部の特権的エリートのものから大衆のものへと拡大していくことをさす場合もある。
[川本 勝]
大衆化をもたらす社会的要因は、資本の独占化、組織集団の大規模化と官僚制化、大衆デモクラシーの進展、教育の普及、マス・コミュニケーションの発達などである。
独占資本主義への変質や官僚制化は、分業化され管理化された職場での労働者の生産活動における主体性を喪失させ、形式合理性の支配のもとで人間関係を非人格化する。人間の個性は平準化、画一化され、人間の原子化を促進するのである。社会が分化、拡大し、組織の大規模化、派生集団の増加によって人々は社会的紐帯(ちゅうたい)を失い、自己喪失感や孤独感を強め、アイデンティティの対象を見失い、パーソナリティーの分裂さえ引き起こすのである。それが社会全体に浸透し、社会的アノミーな状態になる。
また、基本的民主化は、大衆の政治への参加の機会を実現し、政治の領域でも大衆化が浸透するが、大衆デモクラシーの変質過程で、人々の政治的アパシーを生み出し、ファシズムによる支配さえもたらす可能性をもつことになるのである。しかも、デモクラシーを支える自発的結社が衰退し、大衆が政治の場により多く引き込まれるほど大衆化が進行し、権力の集中化、特権化がおこるのである。
発達したマス・コミュニケーションは、擬似環境を形成し、社会の拡大をもたらし、大衆に迎合する画一的な内容を大量に提供することによって大衆化をいっそう促進させるのである。マス・メディアは、政治権力によって世論形成や大衆操作の手段にしばしば用いられる。消費生活の側面では、人々の消費的欲求をつくり、大量生産、大量消費のメカニズムのもとで消費生活、生活様式の平均化、同質化を促進する。また、マス・メディアは、大衆文化、大衆娯楽を発展させると同時に、それの平均化や画一化をもたらしたのである。
[川本 勝]
このようにして、人々が平準化され、個性を喪失することによって、社会自体の拡散化が増大するという大衆化が生ずるのである。しかし、パーソナリティーの分裂やアノミーな状態を内包する大衆化のもとで、人々は、不安や欲求不満の状態につねに置かれているばかりではない。その解消を試みようとする潜在的エネルギーをもつのである。平準化されることによって逆に意識の覚醒(かくせい)が生じ、危機を解消する担い手に転化する側面がある。その潜在的エネルギーは、危機をもたらすさまざまの社会的矛盾の克服に向かう。そのために、自律的結社への組織化がなされ、組織的大衆を生み出したり、政治的パワーを発揮して社会の帰趨(きすう)を決定することもある。大衆化は、社会の拡散と集中の両面をもっているのである。
[川本 勝]
『K・マンハイム著、福武直訳『変革期における人間と社会』(1962・みすず書房)』▽『福武直・日高六郎・高橋徹編『講座社会学 第七巻 大衆社会』(1957・東京大学出版会)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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