改訂新版 世界大百科事典 「ウァレリウスフラックス」の意味・わかりやすい解説
ウァレリウス・フラックス
Gaius Valerius Flaccus Balbus Setinus
1世紀後半に活躍したローマ帝政初期の詩人。生涯は不詳。英雄叙事詩《アルゴナウティカ》の作者として知られ,1416年にフィレンツェのポッジョ・ブラッチョリーニが,サン・ガル寺院でその写本を発見した。しかし第8巻メデア(メデイア)の兄アプシュルトゥス(アプシュルトス)がアルゴー船を追跡する場面で中断しており,以下は未発見である。アレクサンドリア期のアポロニオス(ロドスの)の同名の叙事詩を基にした作品であるが,模倣に終始せず,登場人物の性格描写,情感の表出に力を注ぎ,とくにイアソンの英雄像はアポロニオスをはるかにしのぐものとなっている。また,当時の詩人に特有の,博識を誇示し,過度の修辞を好むという悪癖をもたず,語り口は直截で,劇的である。
執筆者:高橋 通男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報