日本大百科全書(ニッポニカ) 「アポロニオス」の意味・わかりやすい解説
アポロニオス(数学者)
あぽろにおす
Apollōnios
(前262?―?)
ヘレニズム時代最大の数学者の一人で、「偉大な幾何学者」とよばれた。小アジアのペルゲに生まれ、エジプトのアレクサンドリアに出て活躍、のちに当時のギリシア文化の中心地ペルガモンを訪れている。主著は『円錐曲線論(えんすいきょくせんろん)』Kōnika8巻(最終の第8巻は失われている)で、そこでは、円錐曲線が、任意の円錐を、頂点を通らない一平面で切断したときに得られること、また切断面の角度の違いで生ずる楕円(だえん)ellipse、放物線parabola、双曲線hyperbolaの3曲線に関する相互の関係や各曲線のさまざまな性質を論じている。ちなみに楕円、放物線、双曲線の名称は、彼がそれぞれellipsis(不足する)、parabole(一致する)、hyperbole(超越する)とよんだことに由来する。これらの研究はのちにケプラーやニュートンの時代になって天体運動の解明に利用され、たとえば惑星や衛星は楕円軌道上を運動していることがわかった。また彼は、天動説での惑星の不規則運動を説明するために周転円説や離心円説を考案、これはプトレマイオスの『アルマゲスト』Almagestで利用されている。そのほか「アポロニオスの円」も有名である。一般にアポロニオスの幾何学は、形と位置の幾何学に専念したものといえよう。
[平田 寛]
『T・L・ヒース著、平田寛訳『ギリシア数学史Ⅱ』(1960/復刻版・1998・共立出版)』▽『平田寛著『科学の起源』(1974・岩波書店)』
アポロニオス(テュアナのアポロニオス)
あぽろにおす
Apollōnios
生没年不詳。1世紀の新ピタゴラス学派の哲学者。小アジアのカッパドキアのテュアナに生まれる。求道遍歴の哲人で、各地を旅してインドにまで渡った。また彼は奇跡を行う神秘的能力をもっていたといわれ、ネロ帝やドミティアヌス帝によって迫害されたときも、その力によって逃れたという。彼は反キリスト教勢力によって、イエスに対立する偶像としても祭り上げられたらしい。著作はほとんど残っていない。2世紀末のフィロストラトスによって彼の伝記が書かれたが、内容は疑われている。
新ピタゴラス派は、紀元前1世紀ごろローマやアレクサンドリアを中心に、宗教的時代色を反映して興った神秘主義的哲学者の一団。ほかに、ニギディウス・フィグルスNigidius Figulus(前98ころ―前45)、ヌメニオスNoumēnios(生没年不詳)らがいる。
[田中享英 2015年1月20日]
アポロニオス(詩人)
あぽろにおす
Apollōnios
(前295ころ―?)
古代ギリシアの詩人。アレクサンドリアに生まれたが、ロドス島(ロードス島)に長く滞在したので「ロドスのアポロニオス」とよばれる。カリマコスに師事し、アレクサンドリアの大図書館の司書を務めた。ギリシア詩人の注釈や諸都市の歴史などのほか、現存の長編叙事詩『アルゴナウティカ』(アルゴ号の航海)4巻を著した。これは、イオルコス王ペリアスの命に従い、黄金の羊皮を求めたイアソンを主人公とする。イアソンはギリシアのおもな英雄たちとともに、アルゴ号に乗って黒海東岸のコルキスへ航海し、王女メディアに助けられて黄金の羊皮を手に入れた。帰途ダニューブ、ポー、ローヌ川を通り、イタリア、アフリカを経て、故郷へ戻った。第3巻は恋するメディアの心理を生き生き描き出す。航海の物語は神話や歴史への言及に満ちているが、これは単なる考証ではなく、英雄時代のできごとを現実の世界に結び付ける役割を果たしている。ローマの詩人にも影響を与えた。
[岡 道男]
『岡道男訳『世界文学全集 1 アルゴナウティカ』(1979・講談社)』