〈アルゴナウタイ物語〉の意で,古代作家たちが好んだ題材の一つ。作品名にも多く用いられたが,ホメロスの時代の叙事詩は失われた。前6世紀にクレタのエピメニデス,前5世紀にヘラクレアのヘロドトスが同名の作品を書いたが,これも伝存しない。ピンダロスは《ピュティア第4祝勝歌》でこの物語を詳細に扱っている。現存する最も有名なものはロドスのアポロニオスによる叙事詩である。これはホメロス以後の叙事詩中の最高傑作と評されたもので,とくにメデイアの恋を扱った第3巻の迫真的心理描写は圧巻である。また,オルフェウス作として伝存するものもある。ウァレリウス・フラックスの叙事詩はアポロニオスを基にしているが,ヤーソン(イアソン)はよりりりしい英雄として,メデア(メデイア)はさらに清純な乙女として描かれている点に特徴がある。
→アルゴナウタイ伝説
執筆者:高橋 通男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…アルゴナウタイArgonautaiとは,ギリシア神話で金羊毛を獲得するために英雄イアソンが企てた遠征に参加した一群の英雄の総称で〈アルゴ船の乗組員たち〉の意。彼らにまつわる冒険譚が《アルゴナウティカ(アルゴナウタイ物語)》といわれ,ホメロスさえ周知の物語として言及する古い伝説で,ヘレニズム時代のロドスのアポロニオスの作品をはじめ,ほかに2編この表題の叙事詩が伝存する。細部については多々異説はあるが,以下に概要を記す。…
…生涯は不詳。英雄叙事詩《アルゴナウティカ》の作者として知られ,1416年にフィレンツェのポッジョ・ブラッチョリーニが,サン・ガル寺院でその写本を発見した。しかし第8巻メデア(メデイア)の兄アプシュルトゥス(アプシュルトス)がアルゴー船を追跡する場面で中断しており,以下は未発見である。…
…神話的人物とはいえ,オルフェウスという個人を創始者と仰ぎ,個人の魂の救済を目的とし,聖典ともいうべき文書を備えていた点において,宗教が国家的集団的で教典の類を欠いていた古代ギリシアでは特異なものであった。オルフェウスの名の下にこの派の文学として伝えられてきたものには,87編の《オルフィク賛歌》(ほとんど2世紀以後にできた一種の祈禱書),《アルゴナウティカ》(成立年代は不明であるが4世紀以後のもので,アルゴ船の物語をオルフェウス中心に語りかえた内容),《リティカ》(宝石の不思議な効力を叙事詩形で語ったもの。成立年代不明)が残されている。…
…狂暴な神々は去り,人間中心の小叙事詩やエピグラム詩の中には,穏やかな人の心と自然の営みが歌われ,恋人たち,幼い子どもたちの愛すべき姿が登場する。アポロニオスの《アルゴナウティカ》の英雄イアソンは,初期叙事詩の武張った強勇の士たちとは著しく異なり,コルキスの王女メデイアの心を恋の炎で焼き焦がすロマンスの騎士に近いものとなっている。 アポロニオスやカリマコス,また《ギリシア詞華集》に幾多の秀作をとどめているエピグラム詩人たちが掲げた文学的規範は,ギリシア文学を〈ポリス的世界〉という約束から解放し,〈純文学〉という新しい世界を開くものであった。…
…その後,彼女はオデュッセウス一行を1年間歓待したが,彼らが帰国を望んだので,その方途を教えて島を去らせたという。またロドスのアポロニオスの叙事詩《アルゴナウティカ》では,姪のメデイアがアイアイエに立ち寄ったとき,彼女はメデイアが弟のアプシュルトスを殺した罪をきよめてやっている。アイアイエは後代にはイタリアのラティウム地方のキルケイ岬を指すと考えられた。…
※「アルゴナウティカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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