日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウルカヌス」の意味・わかりやすい解説
ウルカヌス
うるかぬす
Vulcānus
古代ローマの火神。ローマの守護神としての性格も備えていたらしいが、その名の由来は早くから不明とされている。その祝祭「ウルカナリア」Vulcānālia(8月23日)は、ローマでも最古の祭日に数えられており、ウルカヌス信仰はきわめて古くからあったと推察される。ウルカナルとよばれる祭祀(さいし)の場所がカピトルの丘の斜面にあったが、これはローマ建国のロムルス伝説ではかなり重要な役割をもった。しかしそこには神殿がなく、祭壇の設けられた「ウルカヌスの広場」と称される空き地であった。ウルカナリアの祭典について伝えられている唯一の儀式は、生きている魚を火中へ投ずるというもので、灼熱(しゃくねつ)の神として、8月の炎熱期と渇水期が重なる時節、つまり収穫期にとくに畏怖(いふ)されたとも考えられる。のちに、ギリシアのヘファイストスと同一視された。
[伊藤照夫]