日本大百科全書(ニッポニカ) 「エスマン」の意味・わかりやすい解説
エスマン
えすまん
Adhémar Esmein
(1848―1913)
フランスの法史学・憲法学者。シャラント県トゥベラック生まれ。パリ大学教授。ヨーロッパ諸国の法制史に造詣(ぞうけい)が深く、歴史的方法を駆使してのフランス法制史研究の諸成果は、『フランス法史入門講義』Cours élémentaire d'histoire du droit français(1892)をはじめ現在でも古典として高い評価を得ている。しかし、エスマンが名声を獲得したのは、憲法学研究の成果として世に問うた名著『フランス・比較憲法綱要』Eléments de droit constitutionnel français et comparé(1896)によってであった。イギリスおよびフランスの市民革命によって確立された近代的自由の理念に信頼を抱いたエスマンは、本書において、法制史研究から得た知識を駆使しながら、この自由の理念を実現するために生み出されてきた憲法上の諸原理を究明し、議会制や国民主権、権力分立などの諸原理が、歴史上いかなる精神をもつものとして形成されてきたかをみごとに描き出した。市民革命によって確立された憲法原理を信じ、その枠内で憲法学の構築に取り組んだエスマンは、その結果、市民革命の原理の修正、克服という当時の時代的要請にはかならずしも十分にこたえることはできなかったが、伝統的憲法理論を集大成することによって、その克服を目ざすその後の憲法学のための基礎をつくり、現代憲法学に大きな影響を与えた。
[高橋和之]