市民革命というのは,一般的には,封建的・絶対主義的な社会および国家権力を解体させて,近代に特有な市民社会を実現させるような革命をいい,具体的には,イギリス革命(ピューリタン革命および名誉革命),アメリカ独立革命,フランス革命などがそれに属するとされる。だが,市民革命によって実現される市民社会なるものは,一方で,自由・平等な個人の結合体としてのcivil societyの側面をもち,また他方で,ブルジョアジーの支配する資本主義社会ないしブルジョア社会bürgerliche Gesellschaftという側面をもっている。
この二つの側面はそもそも市民なるものが,社会を構成する単位としての自律的な個人ないし公民citizen,citoyenという意味と,都市の町人に由来する富裕な有産者ないし資本家Bürger,bourgeoisという意味とをもっていることによる。市民および市民社会がこのように二つの意味ないし二つの側面をもっているために,近代市民社会を実現させるものとしての市民革命もまた二つの側面をもたざるをえない。すなわち市民革命は,一方で,イギリスの〈権利章典〉や〈アメリカ独立宣言〉,フランスの〈人権宣言〉に見られるように,封建的束縛や絶対王政の恣意的な支配から個人を解放し,等しく基本的人権を認められた個人の自由な結合体としての市民社会を実現させたが,他方で,どの革命においても,私的所有権の神聖不可侵(富の不平等の拡大の容認)と商品生産および流通の自由(利潤追求の自由や囲込みの自由を含む)とを確立することによって,イギリスでもアメリカでもフランスでも,ブルジョアジーの支配する資本主義社会の成立をもたらした。市民革命のこの二つの側面は,それぞれ別個なものではなく,互いに表裏一体をなすものであった。市民革命のこの二つの側面の相互関係は,次のごとくである。
まず,資本主義という生産様式は,商品所有者が相互に平等な立場で自由に商品を交換することを前提とし,また,労働力という商品の所有者が身分的にも自由な労働者として労働力市場に存在することを前提としているから,資本主義社会が成立するためには,まずもって,自由・平等な個人がさまざまな束縛から解放されることが必要であった。ところで,封建的束縛や絶対王政の恣意的支配から個人を解放するためには,旧体制を支えている貴族や領主などの封建的支配者の勢力が打倒されなければならないが,これら旧支配者層を倒すためには,商工業によってしだいに富を蓄え始めたブルジョアジーの勢力の伸張が必要であり,事実,イギリスでもアメリカでもフランスでも,旧体制のもとである程度まで資本主義的生産様式が成長してはじめて市民革命が可能となった。このように,資本主義社会が成立するためには自由・平等な個人の結合体としてのcivil societyの成立が必要であり,逆に,そのcivil societyが成立するためには資本主義の成長が必要であった,という意味において,市民革命の二つの側面は表裏一体をなしているのである。
→市民社会
執筆者:遅塚 忠躬
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フランス革命をモデルとするマルクス主義の概念では,封建社会から資本主義社会への移行期に,封建制を打破して資本主義を確立することを目的として,新興のブルジョワジーが主体となって遂行する政治変革をさし,ふつうは「ブルジョワ革命」という。イギリス革命,アメリカ独立革命もそれに相当するとされる。第二次世界大戦後,この古典的規定に対して修正主義が登場し,革命の主体は必ずしもブルジョワだけでなくリベラル貴族もいること,したがって経済関係をめぐる階級対立が主要な内容ではなく,政治構造の変革が革命の目的であることなどが主張された。日本では,大戦中に「ブルジョワ」の語が「市民」に置き換えられたため,「市民革命」の用語が生まれた。「ブルジョワ革命」とまったく同じ意味で使われることもあるが,「市民社会」の誕生を目的とする政治変革へと,意味が横滑りする場合もある。この場合の「市民社会」は,自由な個人が自由に取り結ぶ平等な関係という社会学的概念であり,革命の内容が異なる。日本の戦後歴史学は,この異なる「市民革命」概念を混同ないし折衷した。
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… 一口に啓蒙思想といっても,そのあらわれ方は,近世における西欧各国の歴史的展開の違いに応じて,時期的にも,またとりわけ内容的にも,大きな違いがある。17世紀にいちはやく市民革命をなしとげたイギリスは,当然啓蒙思想の口火を切るという栄誉をになうが,ここでは,その内容はおおむね穏健であり,認識論においては経験論,宗教に関しては理神論といった考えが大勢を占める。一方,市民階層の形成におくれをとったフランスにあっては,フランス革命を頂点とする18世紀が啓蒙思想の開花期となるが,ここでは,先進のイギリス思想に多くを学びながら,啓蒙思想はすくなくとも一翼において,唯物論,無神論などといったより徹底した過激な形態を示す。…
…ただ絶対主義国家は絶対君主を頂点とし,官僚制と常備軍に支えられて,何よりもまず統治機構として成立したため,国民は統治の対象として受動的な位置にとどめられていた。それを逆転させて,国民を主体的・能動的立場においたのは市民革命である。市民革命の論理は,それまで君主の手中にあった主権を奪取して国民の手中におくことであった。…
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