改訂新版 世界大百科事典 「エタナ」の意味・わかりやすい解説
エタナ
Etana
古代バビロニアの伝説上の王。人間界に支配者がいないため,混沌としているのを見かねた女神イシュタルは,エタナの妻に子が生まれて王となるよう,豊穣の薬草を天から取ってくることを許してやってくれと,主神シャマシュに祈る。シャマシュはエタナに,山の鷲に乗せてもらって天へ昇れ,と告げる。山では鷲が蛇と争って敗れ,両翼をもがれて死に瀕していたので,エタナが看護してなおす。鷲の背に乗って飛びたったエタナは天に到着するが,豊穣の薬草は,女神イシュタルのいるもうひとつ上の天にしかないといわれ,再び鷲に乗って昇るが,あまりの高さに不安に襲われ,鷲の両翼を引っ張ったため,鷲もろとも地上に墜落する。この話はアッシリアのアッシュールバニパル(在位,前668-前627)の図書館の遺跡から出土した粘土板文書から解読されたものに基づいて復元された。山の上での蛇と鷲のたたかいは,フィンランドなどの類話にもみられるが,日本の〈鴻の卵〉も類似しており,比較研究を待っている問題である。
執筆者:小澤 俊夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報