イシュタル(読み)いしゅたる(英語表記)Ištar

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イシュタル」の意味・わかりやすい解説

イシュタル
Ishtar

バビロニア女神ギリシア神話ではアスタルテ,シュメール語ではイナンナと呼ばれる。新石器時代以後,西アジアに広く信仰された。豊穣神かつ好戦的軍神。天神アヌあるいは月神シンの娘で,太陽神シャマシュと死神エレシュキガルの妹の地位を与えられ,メソポタミアのほとんどすべての都市の守護神の配偶者として崇拝された。『ギルガメシュ叙事詩』では,英雄ギルガメシュに愛を求めて拒否され彼を殺そうとするが,彼とその友人エンキドゥの抵抗によって果たせずに終わった。ギリシア神話に影響を与えているイシュタル・タンムズ神話のヒロインで男神タンムズ愛人とする。のちに,西アジア各地の新石器時代遺跡からテラコッタのイシュタル神像が多数発掘されている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イシュタル」の意味・わかりやすい解説

イシュタル
いしゅたる
Ištar

古代メソポタミアのアッシリア・バビロニア地方で崇拝された女神。南セム人の男神アスタルと関係があると思われ、後代には西セム人のフェニキアで、アシュタルテの名で崇拝された。ギリシアの女神アフロディテともなんらかのつながりがあると考えられる。この女神はシュメールの女神イナンナ(シュメール語でニン・アンナ、「天神の奥方」の意)を引き継ぐもので、天体神としては天神アヌの娘である金星を表すものとされた。南メソポタミアのウルクが、イナンナ=イシュタル崇拝の中心地であり、ここにはこの女神に捧(ささ)げられた神殿があった。アッシリア・バビロニアの『タンムーズ神話』の、たとえば『イシュタルの冥界(めいかい)下降』では、冬に死んで春によみがえる植物神タンムーズ(シュメール語でドゥム・ジ・アブズ、「深淵の真の子」の意)を追いかけて冥界まで下る地母神的な女神として表されているが、他方『ギルガメシュ叙事詩』では、英雄ギルガメシュを誘惑して拒否されると、激怒して戦いを引き起こすという戦闘的な女神が描かれている。このように愛と豊饒(ほうじょう)の守り神であるとともに、男性的な戦士の性格をもつ女神であった。

矢島文夫

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