日本大百科全書(ニッポニカ) 「エダシャク」の意味・わかりやすい解説
エダシャク
えだしゃく / 枝尺蛾
昆虫綱鱗翅(りんし)目シャクガ科の一部のガの総称。シャクガ科の種類は日本に800種以上分布しているが、これを六つの亜科に分類し、そのうちの一つをエダシャク亜科Ennominaeという。この亜科に属するガは日本だけでも300種近くが知られている。幼虫はすべてシャクトリムシで、腹脚(ふくきゃく)によって樹木の枝にしっかりとつかまり、枝に対して一定の角度で体を一直線の姿勢に保ち、静止していると、その色彩斑紋(はんもん)とともに、枝とほとんど区別ができないほど似ている。昼間このように静止していることによって、捕食性の鳥獣から身を守っている。エダシャク亜科の幼虫がすべて小枝に似ているわけではないが、分類学上この亜科に属するシャクガは、エダシャクという語尾で統一されている。成虫ははねの開張が10ミリメートルから80ミリメートルまで種々あり、おもに夜行性であるが、一部は昼間活動する。幼虫のなかには草を食べるものもあるが、多くは樹木の葉を食べ、森林や庭園樹の害虫が少なくない。
日本の山野にみられる特徴的な種をあげる。トンボエダシャクCystidia stratoniceは、はねの開張25~31ミリメートルで、昼行性。東京地方では6月、寒冷地では7~8月、平地に出現する。幼虫の食草はツルウメモドキ。ユウマダラエダシャクAbraxas mirandaは、年2回(5~6月と8~10月)平地に出現し、春型のはねの開張20~25ミリメートル、夏型は18~26ミリメートル。幼虫の食草はマサキ。クロスジフユエダシャクPachyerannis obliguariaは、はねの開張15~19ミリメートルで、東京地方では11~12月に出現し、雑木林で昼間活動する。幼虫の食草はコナラ、クヌギ、ミズナラなど。オオシモフリエダシャクBiston betularia parvaは、はねの開張21~36ミリメートルで、本州中部地方の山地や北海道の低地に7月ごろ出現する。幼虫の食草はシラカンバ、ハコヤナギ、コケモモなど範囲が広い。このガのヨーロッパ亜種では、イギリスの産業革命に伴いマンチェスターを中心に急激に工業暗化型が増加して有名となり、自然選択の実例として引用される。
[井上 寛]