改訂新版 世界大百科事典 「シャクガ」の意味・わかりやすい解説
シャクガ (尺蛾)
鱗翅目シャクガ科Geometridaeの昆虫の総称。鱗翅目の中では,ヤガ科に次いで種数の多い科で,日本だけでもクワエダシャク,ヨモギエダシャク,トンボエダシャク,ユウマダラエダシャクなど800近くの既知種があり,世界では何万種も登録されている。幼虫はシャクトリムシ(英名inchworm/measuring worm)と呼ばれる。一般に鱗翅目の幼虫(芋虫,毛虫)は,5対の腹脚をもつが,シャクガ科では第6と第10腹脚(尾脚)しかないため,特異な歩き方をする。草木や樹木の葉を食べるものが多く,庭木,畑作物,果樹,森林の害虫とされている種がたくさんある。幼虫の中には,緑色あるいは枯枝のような色をして,背景とよくマッチし,2対の腹脚で枝などにつかまり,一直線の姿勢で静止していると,小枝や葉と区別がつきにくい,いわゆる擬態を示すものが少なくない。一方,白地に黒色や橙色の斑紋をもち,たいへん目だつものの中には,体液に毒性があって,鳥獣が食べないような種もある。幼虫は大部分が植物しか食べないが,ハワイ諸島では,ハエのような双翅目や小型の膜翅目を捕食する肉食性の種が数種発見されている。一般に翅の開張1~2cmの小型種が多いが,まれには8cmに達する大型種もいる。多くがガ類と違って,体が細く,翅の面積の広いものが多いため,飛び方は緩慢である。大部分は夜行性で,灯火に飛来するが,ごく一部は昼飛性。いずれの場合も,口吻(こうふん)(舌)の退化した一部の種を除き,みつを求めて花を訪れる種が多いので,植物の結実にたいせつな花粉媒介者としての役割はひじょうに大きい。また個体数も種数も多いので,鳥やコウモリの重要な食料となっていて,生態系の中で果たす役割もきわめて重要である。この科は北極圏近くから熱帯まで,植物の生息するところならどこにでも見られるが,植物の種数の多い熱帯から亜熱帯にもっとも栄えている。一部の種は高山帯に適応し,また一部は他の昆虫のまったく姿を消した冬期に羽化し活動する。このようなフユシャク類の多くは雌の翅が退化している。
執筆者:井上 寛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報