エベンキ族(読み)エベンキぞく(その他表記)Evenki

翻訳|Evenki

改訂新版 世界大百科事典 「エベンキ族」の意味・わかりやすい解説

エベンキ族 (エベンキぞく)
Evenki

ロシア連邦,シベリアに住む民族。人口2万9900(1989)。旧称ツングース族。分布範囲は広く,西はエニセイ川左岸から東はオホーツク海岸まで,北は極北ツンドラ地帯から南はアムール川までというシベリアのほぼ全域と,中国北西部に及び,ツングース諸語の一つであるエベンキ語を話す。最も人口が集中しているのは,エニセイ川支流のニジニャヤ・ツングースカ川とポドカメンナヤ・ツングースカ川の河間地域で,ここを中心に1930年エベンキ民族管区(面積76万7600km2。1977年エベンキ自治管区と改称)が設けられた。この自治管区に住むエベンキ族は,特性を生かしておもに毛皮生産とトナカイ飼育に当たっている。彼らの原郷地はバイカル湖周辺で,前2千年紀にはすでに,その祖先(プロト・ツングース)の文化が形成され,5世紀ころまでに集団としての移動が始まったとされている。元来は徒歩の狩猟民であったが,古くから生業形態には地域的な違いが見られた。トナカイ飼育を行う集団はシベリア全域に認められたが,バイカル湖の東部には牧畜,アムール川上流地域には馬の飼育,オホーツク海沿岸には定住的な漁労を行う集団があった。異民族との接触同化も著しく,エベンキ族はシベリア原住民の言語・文化の全体に深いかかわりをもっている。文化の基本的要素としては白樺樹皮の円錐形天幕住居(チュム)や舟,騎乗用のトナカイ,揺籠(ゆりかご),前開きの上衣と胸当てを特徴とする〈ツングース服〉などであった。親族組織や社会生活,儀礼では外婚的な父系氏族が中心であった。アニミズムシャマニズムは特に発達しており,また,口碑伝承は種類が多く豊富であった。
ツングース語系諸族
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エベンキ族」の意味・わかりやすい解説

エベンキ族
エベンキぞく
Evenki

ロシア,シベリアの少数民族中,最大の人口(約 7万)と分布領域をもつ民族。言語的にはツングース語系諸族の一つ。ロシア,クラスノヤルスク地方エベンキにまとまって居住するほかは,西はオビ川とイルティシ川から東はオホーツク海沿岸,サハリンに及ぶシベリア全域に分散している。また中国の内モンゴル自治区周辺に数千人が居住し,以前はソロン(索倫)族と称されていた。そのため生業をはじめ言語,文化,社会のあらゆる面で地域差が著しい。さらに,オロチョン,マネギル,ビラールと呼ばれる民族があるが,言語・文化的にはいずれもエベンキに含まれる。全体として生産には狩猟,漁労,トナカイ飼養のさまざまな複合がみられ,またセーム革やシラカバ樹皮の円錐形天幕(チュム),前開き外套と胸当てを特徴とする衣服,シラカバ樹皮の舟,ゆりかごなどエベンキ族全体に共通する文化要素がある。社会組織は 17世紀に父系氏族(ハラ)の区分が知られており,親族名称は類別的で,各世代で年上,年下の区別がなされたことが特徴的である。宗教ではシャーマニズムの発達が顕著であり,またトナカイに関する呪術儀礼や自然崇拝,兄弟神の天地創造神話が認められる。1931年以降ソビエト連邦時代にはコルホーズ化されていた。

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世界大百科事典(旧版)内のエベンキ族の言及

【ツングース諸語】より


[分類と分布]
 ツングース諸語には次のものがあり,これらはすべて同じツングース祖語に由来するとみられる。A群:(1)エベン語Even(またはラムート語Lamut),(2)エベンキ語Evenki(狭義のツングース語),(3)ソロン語Solon,(4)ネギダール語Negidal。B群:(5)ウデヘ語Udehe,(6)オロチ語Orochi。…

【グラスコーボ文化】より

…東方地域と深い関係をもち,貝製品中に遠く日本海などから持ち込まれたものがある。またこの文化の要素には,のちのシベリア森林民族のエベンキ族ユカギール族の文化に認められるものを有している。この文化期の土器は,丸底が主体で,刺突文や篦(へら)描き文をもつが,地文に方形の叩き目をもつものも見られる。…

【住居】より

…住居の形態や生活様式は,当然のことながら,このような自然環境や生業形態に規定されてきたが,基本的には,(a)狩猟民やトナカイ飼養の狩猟民の円錐型天幕チュム,(b)定着民の竪穴住居,(c)牧畜民のフェルトの天幕ユルタ(モンゴルのゲル),(d)乾燥・半乾燥地帯の農牧民,農耕民に特徴的な日乾煉瓦・石・土造の住居,が区別できよう。
[シベリア狩猟民の天幕チュム]
 シベリアの広大な部分を占める森林ステップとタイガ地帯は古来から狩猟民の世界であり,たとえば,この地域にもっとも広く分布するエベンキ族(狭義のツングース族)は一年中獲物を求めて移動生活を送っていた。その住居のチュムchumは,4~5本の太い棒を上部で結び合わせて主柱とし,これに10~40本の細木を円錐形に立てかけて骨組みとし,高さは2~4m,直径は3~6mであった。…

【ソビエト連邦】より

…上記のハンティ,マンシ,ネネツもその一部であるが,大部分はツングース語系諸族と旧シベリア諸族(パレオアジアート,古アジア諸族とも呼ばれる)である。前者には西シベリアからオホーツク海沿岸に分布するエベンキ族,アムール川下流,サハリン,沿海州に分布するエベン族,ナナイ族,ウリチ族,ウイルタ族(旧称オロッコ族),オロチ族などの民族が属し,後者にはコリヤーク族,チュクチ族,イテリメン族(旧称カムチャダール族),ニブヒ族(旧称ギリヤーク族),ユカギール族,ケート族などの民族が属する。 インド・ヨーロッパ語族に属する言語をもつ民族には,前記のロシア人,ウクライナ人,白ロシア人(ベラルーシ人)のほかに,バルト海沿岸にリトアニア人とラトビア人,ウクライナの南に,ルーマニア人と言語・文化の面で近いモルダビア(モルドバ)人がいる。…

【ツングース語系諸族】より

… シベリア語群,アムール下流語群の諸語を使用する民族は,ソロン族を除いてほとんどがロシア領に居住する。そのうち,最も人口の多いエベンキ族(2万9900人(1989,ロシア側のみ)。狭義のツングース族)はエニセイ川西岸からオホーツク海岸に及ぶ東シベリア全域に広範に分布し,その生業は各地の自然環境や文化的背景,歴史的事情を反映して地域的差異を示している(狩猟採集,トナカイ飼養,農牧畜など)。…

【ボール】より

…ラグビーのようにボールを奪い合ってゴールに入れるのを競う形式では,球体にこだわらない。シベリアのエベンキ族のゲームでは立木がゴール,1本の棒がボールになるし,また内陸アジアの遊牧民に一般的な騎馬ラグビーであるブズカシは,頭と四肢を切り落とした羊の胴体をボールにしている。 ボールは丸いという命題の下に,これまで人類が開発したボールを製作技術から分類すれば,ふくらませ球系,巻き球系,詰め球系,編み球系,切出し球系,鋳型球系のカテゴリーが区別される。…

※「エベンキ族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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