アルタイ語族ツングース・満州(洲)語群北方ツングース語系に属する民族。ロシア連邦ブリヤーチア共和国、チタ州、アムール州、中国領黒竜江省北部、内モンゴル自治区に分布する。人種的には北モンゴロイド人種に属する。ロシアではエベンキ(ツングース)の一派と考えられているが、中国では別個の民族とされている。中国語では鄂倫春族と記し、鄂倫春族自治旗が形成されている。中国領内に7004人(1990)。オロチョンの語源は、ツングース語の「オロン」というトナカイもしくは山頂を意味することばにあるといわれている。
なお、かつて沿海地方に居住するオロチ、ウリチ、樺太(からふと)(サハリン)のウイルタ(かつてオロッコとよばれていた)も、誤ってオロチョンとよばれていた。
[佐々木史郎]
おもな生業は狩猟であるが、交通輸送手段として使うためウマもしくはトナカイの飼養も行われている。ウマを飼う者は馬鄂倫春(使馬部)、トナカイを飼う者は馴鹿鄂倫春(使鹿部)とよばれたこともあった。狩猟の対象となったのはノロ、ハンダカン、クロテン、リス、オオカミ、キツネ、イノシシ、クマなどである。ノロは獲物のなかでもっとも多く、肉は食用、皮は住居、衣料、手工芸品などに用いられた。リス、オオカミ、キツネなどは交易用の毛皮を獲得するためにとられた。良好な猟場を求めるためと、ウマもしくはトナカイの飼育のため定住はせず、季節ごとや、不猟、疫病の流行のときなどに移動が行われた。オロチョンのおもな住居は白樺(しらかば)や松の枝、幹を円錐(えんすい)形に立て並べ、その上に夏は白樺の樹皮、冬はノロの皮をかぶせたもので、円錐の頂上は、煙穴、明り窓としてあいていた。移動のときは、皮をその他の家財道具とともにウマもしくはトナカイに乗せて運び、骨組みは放置された。ウマは乗用、運搬用のほか、搾乳されて乳製品を食料にする。トナカイも乗用にされないほかはウマと同様に使われる。狩猟は男の仕事であるが、家畜の世話は女の仕事であった。
[佐々木史郎]
父系外婚氏族をもち、氏族はさらに祖先を共有する小氏族に分かれる。各小氏族は姓をもつが、同氏族内の小氏族間の婚姻は禁じられている。家族は小家族制で平均4.7人強。一つの幕舎に3世代以上住むことはまれで、子供は結婚すると父親から家畜を譲り受け(馬の場合は1頭)、別の幕舎を建てて独立。老人は男女を問わず尊敬され、優遇される。
[佐々木史郎]
オロチョンの信仰はシャマニズム(シャーマニズム)が中心である。シャマン(シャーマン)は諸霊と交信し、祈祷(きとう)や病気の治療を行う。オロチョンは自然界の諸霊を信仰し、そのうち馬と日常生活の神である馬神と、諸病の神である家神は、肖像を皮袋に入れて家の最奥部の神聖な場所に安置された。
[佐々木史郎]
『大塚和義著『草原と樹海の民:中国・モンゴル草原と大興安嶺の少数民族を訪ねて』(1988・新宿書房)』▽『坂本竜彦著『されど故郷忘じがたく:オロチョン族と生きる日本人・岩間典夫』(1988・主婦の友社)』
ロシア連邦のバイカル湖東部から中国東北部の興安嶺地域で少数のトナカイを飼い,狩猟を生業としながら移動生活をしていたエベンキ族の一派。オロチョンの名はエベンキ語でトナカイを意味する〈オロン〉に由来するとされている。興安嶺地域では騎馬の習慣があり,モンゴル人からの影響によるものと考えられている。白樺樹皮の舟や調度品,円錐形天幕住居をはじめ,社会構造,シャマニズムなどはエベンキに共通している。今日,中国領のオロチョン(鄂倫春)は人口約7000(1990)で,人民公社への編入など,著しく近代化している。また,アムール川流域,サハリンではエベンキ族,ウイルタ(オロッコ)族に対して,しばしばオロチョンの呼称が用いられたことがある。
→エベンキ族
執筆者:荻原 真子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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