改訂新版 世界大百科事典 「ツングース語系諸族」の意味・わかりやすい解説
ツングース語系諸族 (ツングースごけいしょぞく)
ツングース諸語に属する言語を話す諸民族。かつてはツングース族(広義の)と呼ばれた。今日,その大部分はロシア連邦のシベリアと極東地域に住み,少数が中国の東北部,新疆ウイグル(維吾爾)自治区,内モンゴル自治区に居住する。ロシア領でツングース語を話す人口は全体で約4万(1979)である。ツングース諸語については,言語学上,北方群と南方群に分けるシレンクの先駆的提言をはじめ,別項の〈ツングース諸語〉に見られる分類など,いくつかの分類の試みがあるが,ここでは旧ソ連のツングース学者G.M.ワシーレビチの分類に基づいて説明する。
ワシーレビチは,まずツングース諸語をツングース語群と満州語群に二大分し,前者についてはさらにシベリア語群,アムール下流語群の下位区分を行っている。シベリア語群にはエベンキ語(ソロン方言を含む),ネギダール語,エベン語が含まれ,アムール下流語群にはナナイ語,ウリチ語,ウイルタ語,オロチ語,ウデヘ語が含まれる。一方,満州語群は満州語(シボ方言を含む)と女真語(死語)からなっている。
シベリア語群,アムール下流語群の諸語を使用する民族は,ソロン族を除いてほとんどがロシア領に居住する。そのうち,最も人口の多いエベンキ族(2万9900人(1989,ロシア側のみ)。狭義のツングース族)はエニセイ川西岸からオホーツク海岸に及ぶ東シベリア全域に広範に分布し,その生業は各地の自然環境や文化的背景,歴史的事情を反映して地域的差異を示している(狩猟採集,トナカイ飼養,農牧畜など)。エベンキ族と言語・文化の上で近い関係にあるエベン族はシベリア北東部(レナ川以東オホーツク海沿岸まで)に居住し,狩猟採集,トナカイ飼養のほか,沿岸地域では定住的な海獣狩猟に携わった。この2民族以外はロシアの極東地域(アムール川流域,沿海州,サハリン)に古くから居住してきた民族である。そのうち,ナナイ族,ウリチ族,オロチ族,ネギダール族は,アムール川の中・下流域に定住し,サケ・マス漁を主とする漁労文化を発達させてきた。また,沿海州のウデヘ族は移動生活を送りながら,森林獣の狩猟と河川での漁労を営んだ。ウイルタ族(オロッコ族)はサハリン東部で少数のトナカイを飼い,これを移動・運搬の手段として狩猟や漁労に携わってきた。以上の諸民族は言語のほかにもシラカバ樹皮でつくる円錐形天幕(チュム),舟,揺籃や前開き外套,胸当て・腰当ての組合せによる衣服,共通の氏族の名称,シャマニズムなど,共通の文化要素を長く保持してきたことが知られる。ソロン族はエベンキ族の一派であるが,言語・文化の上で隣接する満州族やモンゴル族の影響を受け,馬を飼い牧畜を営み,今日では内モンゴル(蒙古)自治区に居住する。満州族は古く中国東北部に定住し農耕に従っていたが,17世紀以降,著しく漢民族と同化した。今日では満州語を保持する民族は少数で,シボ(錫伯)族(シベ族)のような小さな集団が黒竜江省と新疆ウイグル自治区に居住するだけである。12世紀の初めに遼を滅ぼし,つづいて北宋を倒して華北を支配した女真(金)もツングース語系諸族の一つとされる。彼らは16世紀に満州人に併呑されたが,17世紀に清朝を樹立したのは,この女真の血をひくヌルハチであった。しかし現在のツングース語系諸族の生活と文化は,社会主義体制を経てそれぞれの地域で著しい変容を遂げている。
執筆者:荻原 真子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報