日本大百科全書(ニッポニカ) 「オキナヒメジ」の意味・わかりやすい解説
オキナヒメジ
おきなひめじ / 翁非売知
blackspot goatfish
[学] Parupeneus spilurus
硬骨魚綱スズキ目ヒメジ科に属する海水魚。日本海側では新潟県から九州北西岸、太平洋側では青森県陸奥(むつ)湾から九州南岸、八丈島、小笠原(おがさわら)諸島、屋久島(やくしま)、南西諸島、台湾、インドネシア、オーストラリア西岸・東岸など西太平洋、インド洋に分布する。体は伸長し側扁(そくへん)する。体高は背びれの起部付近でもっとも高く、体長のおよそ29~31%。頭の外郭は緩く傾斜する。頭長は体長のおよそ33~34%。吻(ふん)は短く、頭長は吻長の1.8~2.2倍。口は小さく、上顎(じょうがく)の後端は吻長の前3分の2に達する。上下両顎に1列の互いによく離れた円錐歯(えんすいし)がある。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)と口蓋骨に歯がない。下顎の前端付近に1対(つい)の細長いひげがあり、前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の後縁下に達する。頭長はひげの長さの1.8~2.3倍。鰓耙(さいは)は上枝に6~7本、下枝に21~24本が並ぶ。鱗(うろこ)は大きく、側線鱗(りん)数は27~30枚。背びれはよく離れた2基で、8棘(きょく)9軟条、第1棘はきわめて短い。臀(しり)びれは7軟条で、前縁長は基底長より短い。尾びれの後縁は深く二叉(にさ)する。体色は瞬時に変えることができるが、普通、背側面では橙赤(とうせき)色~赤褐色で、腹側面では淡赤色または白色である。各鱗の縁辺は暗色。尾柄(びへい)の中央部の背側面に眼径大か、それより大きな黒色斑(はん)がある。頭から尾柄に3本の不鮮明な黄色帯が走る。ひげは淡黄色。第2背びれ、臀びれおよび尾びれに淡黄色線がある。沿岸の岩礁やサンゴ礁域に生息し、日中は海底で休み、夜に活発に捕食する。稚魚は群がる傾向があるが、成魚は単独か小さい群れでいる。ひげを使って砂の上や中を探り、おもに甲殻類を食べる。全長50センチメートルに達する。釣り、定置網、刺網(さしあみ)などで漁獲される。白身魚で、煮つけ、揚げ物、刺身などの総菜にする。
和名は下顎のひげに由来するが、高知県や和歌山県ではメンドリ、宮崎県ではセメンドリ、長崎県ではオキベニサシなどとよばれている。ホウライヒメジP. ciliatusに酷似するが、本種は臀びれ長がその基底長より短いこと、下枝鰓耙数が少ないことなどで区別できる。
[尼岡邦夫 2021年8月20日]