日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒメジ」の意味・わかりやすい解説
ヒメジ
ひめじ / 非売知
goatfishes
硬骨魚綱スズキ目ヒメジ科Mullidae魚類の総称、またはそのなかの1種。ヒメジ科魚類は世界の温帯~熱帯域に広く分布し、世界から6属約62種、日本からはヒメジ属、アカヒメジ属およびウミヒゴイ属の3属約25種が知られている。ヒメジ属は鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)と口蓋骨に歯があり、第2背びれの前半の下部に鱗(うろこ)があることなどで、アカヒメジ属とウミヒゴイ属は鋤骨と口蓋骨に歯がなく、第2背びれに鱗がないことなどで区別する。また、アカヒメジ属は上下両顎(りょうがく)歯が小さく絨毛(じゅうもう)状であることなどで、他方ウミヒゴイ属は大きな円錐歯(えんすいし)が1列に並ぶことなどで、これら2属が区別される。最大体長は60センチメートルあまりになる種もいるが、10~20センチメートルのものが多い。体は細長く、側扁(そくへん)する。下顎の先端付近に1対(つい)の長いひげがある。側線は完全で、鰓蓋(さいがい)の後ろから尾びれの付け根までとぎれずに体の背縁に並行して走り、尾びれ基底までの側線鱗(りん)数は27~38枚。背びれはよく離れた2基であり、第1背びれは7~8棘(きょく)で、棘は細長く、第1棘はきわめて短い。第2背びれは普通は9軟条。臀(しり)びれは普通は7軟条。尾びれは深く二叉(にさ)する。ほとんどの種は沿岸のサンゴ礁や岩礁域の砂泥底に生息する。口ひげは化学感覚受容器(味蕾(みらい))をもっていて、底層の上や内部にいる餌(えさ)になる生物を探すことができる。吻(ふん)を底に突き立てて、餌をつかまえる。肉食性でおもに甲殻類や底生無脊椎(むせきつい)動物などのさまざまな小動物を食べるが、小魚を食べる種もいる。肉質はよくて、鮮魚で売られている。あごに1対の長いひげをもつことでギンメダイ科Polymixiidae魚類に似るが、ギンメダイ科では背びれは1基で4~6棘をもつこと、臀びれに3~4棘をもつことなどでヒメジ科と区別できる。
[片山正夫・尼岡邦夫 2021年2月17日]
代表種
ヒメジUpeneus japonicus(英名はJapanese goatfish)は日本ではヒメジ科の魚のなかでもっとも普通にみられる種で、東京ではヒメ、関西ではヒメイチ、長崎ではベニサシ、新潟ではオキノジョウなどとよばれる。北海道から九州南岸の太平洋と日本海の沿岸、東シナ海、南西諸島、小笠原(おがさわら)諸島、朝鮮半島、済州島(さいしゅうとう)(韓国)、台湾、中国沿岸、ピョートル大帝湾などに分布する。体は細長くやや側扁する。口は小さく、上顎の後端は目の前縁下に達しない。下顎は上顎より前に突出しない。上下両顎、鋤骨および口蓋骨に絨毛状の歯がある。下顎の前端付近に2本の長いひげがあり、主鰓蓋骨の後縁下に達する。前鰓蓋骨の後縁に鋸歯(きょし)がない。背びれはよく離れた2基で、7棘9軟条。第1棘はもっとも長い。臀びれは7軟条。尾びれの後縁は深く二叉する。体ははがれやすい円鱗で覆われる。側線鱗数は31~33枚。第2背びれと臀びれの基底前半部および尾びれ基底は小鱗をかぶる。体色は背側が暗赤色~橙赤(とうせき)色で、側面が赤色~淡赤色、腹面が白色。ひげは黄色。背びれと尾びれの上葉に2~4本の赤色の斜走帯がある。尾びれの下葉は一様に赤色。休息時や夜間には体色は淡くなり、体側面に3~4本の赤色の横帯が出現する。水深4~200メートルの小石や貝殻混じりの砂地にすむ。下顎のひげを使って砂中や砂上の餌を探し、おもにコエビ類、ヨコエビ類などの甲殻類を食べる。稚魚は5~12月に沿岸表層域に出現し、体長3.5センチメートルくらいで底層に移動する。最大全長は20センチメートルに達し、底引網で多量に漁獲される。旬(しゅん)は冬で、肉質は淡泊。塩焼き、煮つけ、干物、てんぷらなどの総菜や練り製品の材料にされる。
ヒメジ属Upeneusには日本から8種が知られているが、本種はひげが黄色で、体側に縦帯がなく、尾びれの上葉に2~4本の暗赤色帯があることなどで他種と区別できる。
[片山正夫・尼岡邦夫 2021年2月17日]