日本大百科全書(ニッポニカ) 「おばんざい」の意味・わかりやすい解説
おばんざい
京都で日常的に食べられているおかずをさすことば。古くからの商家や旧家が多かった京都市中心部では、切り干し大根やひじきのような乾物、おから、旬(しゅん)の野菜などを食材にした、平生から食べ慣れたおかずのことを「おぞよ」や「ぞよもん」、「おまわり」とよんでおり、魚などの比較的高価なおかずはこれらと区別して「お焼きもの」などとよんでいた。おばんざいとは、このような日常的な総菜の総称である。京都では、かつては新鮮な魚介類の入手が困難であった一方で、塩干(えんかん)物、乾物、豆腐、旬の野菜や山菜などを使った料理が、禅宗の食文化の影響を受けながら発達してきた。おばんざいは、昆布や鰹節(かつおぶし)のだしのうまみを生かし、安価な旬の野菜や乾物を調理する点に特徴がある。今日では、京都にみられるだしの味を生かした総菜や酒の肴(さかな)などを表すものとして世間で広く使われるようになった。
「おばんざい」は漢字では「お番菜」が一般的であるが、お晩菜やお万菜と書くこともある。「番」の文字には、日常的な、粗末な、といった意味がある。商家などの町衆や奉公人の質素倹約を信条とする慎ましい暮らしとともに、町内や家ごとの年中行事や習慣のなかで育(はぐく)まれてきた料理である。そのため、野菜の葉や表皮、だしをとった乾物の残り物などをむだにせず、上手に使い切る。このくふうを「始末する」といい、おばんざいの特徴になっている。
[編集部]