改訂新版 世界大百科事典 「オロシウス」の意味・わかりやすい解説
オロシウス
Paulus Orosius
ローマ帝国末期のヒスパニア(スペイン)出身の司祭。生没年不詳。414年,すでに《プリスキリアヌス派およびオリゲネス派の過誤に関する教訓書》を著していたオロシウスは,ゲルマン諸族に蹂躙(じゆうりん)される生地を逃れてアフリカへ渡り,アウグスティヌスの弟子となる。415-416年,師の勧めでベツレヘムのヒエロニムスのもとを訪れ,415年エルサレムの地方教会会議ではペラギウスを異端として論難している。東方から戻ると,《神の国》を執筆中のアウグスティヌスに,西ゴートのローマ市略奪(410)を契機に再燃した異教徒のキリスト教非難を歴史的に論駁するよう勧められ,1年余りで《異教徒に反論する歴史》7巻を完成させた。この書はエウセビオスの編年法に従い,リウィウス,ユスティヌス,エウトロピウスなど異教側史料にも依拠して,天地創造から417年までの歴史を扱い,その執筆目的ゆえに異教時代の災厄を強調する反面,キリスト教時代の災禍は軽視してキリスト教的進歩史観を示しており,中世に広く読まれた。またその記述は,ローマの征服と支配を断罪して属州民的郷土愛をうかがわせる一方で,征服の結果たるローマ帝国の成立とキリスト生誕の同時性を強調し,エウセビオス以来のキリスト教的ローマ理念をなお強く反映するなど矛盾も多い。ゲルマンに蚕食される西ローマ帝国にあってなお〈永遠のローマ〉への信仰から脱却しきれない,当時の知識人層の葛藤を示す一例とも言えよう。
執筆者:後藤 篤子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報