古代ローマの歴史家。北イタリアのパタウィウム(現,パドバ)出身。《ローマ史》《ローマ建国史》などとも訳される《建国以来の書Ab urbe condita libri》の著者として知られる。ほかにも著作があるが散逸した。その生涯はほとんどわからないが,著作によってアウグストゥス帝の好遇を得,ローマに住んで帝側近の文人グループに属した。一生を著作にささげ,歴史記述が政治家のものであったローマの伝統においてまれな存在である。彼の著書はローマ史の初めから後9年までの膨大な通史で,全142巻。うち第109~116巻の8巻は〈内乱史〉と題されていた。現存するのは国初から前293年までを扱った第1~10巻,前218年から前167年までを扱った第21~45巻の計35巻にすぎないが,4世紀のものとされる各巻の〈綱要(ペリオカ)〉が第136,137巻の2巻を除く全巻について伝えられており,また前190-前11年の特殊な宗教史的記事を抜粋したユリウス・オブセクエンスの編書が現存し,その他エジプトのオクシュリュンコス出土のパピルスなどからもある程度散逸部分の内容を知ることができる。さらにカッシウス・ディオ(後2世紀後半~3世紀前半),その他リウィウスを典拠とする後代の史書も原著を知るうえで重要資料である。
彼の史書はローマ共和政期の年代史家,とくにいわゆる〈後期年代史家〉(前1世紀前半,C. クアドリガリウス,V. アンティアスなど)に負うところが大きく,第2次ポエニ戦争時代からはポリュビオスの史書もかなり利用しているが,典拠を十分に咀嚼(そしやく)することなく,そのためにかえって伝承の古い層をよく伝えている。事実彼は共和政の伝統に思慕を寄せ,アウグストゥス帝からポンペイウス派的であると評された。しかし帝によるローマの再生を歓迎し,新時代建設の高揚した風潮を歴史記述に表現した。また〈乳のような豊饒さ〉をたたえられた文章もラテン文学黄金時代を真に代表する散文である。
執筆者:吉村 忠典
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古代ローマの歴史家。北イタリアのパタウィウム(パドバ)に生まれ、同地で没した。その生涯の詳細は明らかでない。長くローマで過ごしたが、公職にはつかず、特別な政治的、軍事的体験はなかったと思われる。皇帝アウグストゥスの文学サークルに迎え入れられ、40年を費やして、ローマ建国よりアウグストゥスの世界統一に至る(正しくは前9年のドルススの死まで)全142巻からなる歴史記述『ローマ建国史』を著した(なお、現存するのは第1~10巻、第21~45巻の35巻で、他の巻は1世紀後半の「要約」のそのまた「要約」が残っているにすぎない)。適宜分冊で公刊されたこの作品は、在来の年代記作家の著作およびポリビオスなどの歴史叙述を総合、集大成したもので、アウグストゥスの平和に至るまでの大帝国ローマを築き上げたローマ人の徳と力とを賞賛した編年体の歴史叙述であり、世界帝国の建設者ローマ国民をたたえる一大記念碑となっている。キケロの文体を模した表現は、流麗にして変化、技巧に富み、黄金時代のラテン文学を代表する。内容に関しては、年代記作家の党派的立場を離れているとはいえ、その利用した資料に対する批判的姿勢に欠け、なによりも古ローマの理想化に走り、矛盾、誤謬(ごびゅう)に満ちているという批判が古くから加えられてきた。帝政期には大いに読まれ、その名声はローマ末期まで続き、ルネサンス期にはダンテが「誤りなき歴史家」としているが、古ローマの科学的研究は、リウィウスの批判的な検討をもって始まったといえよう。
[長谷川博隆]
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前59?~後17?
古代ローマの歴史家。北イタリアのパドヴァの生まれ。アウグストゥスの愛顧を受け,全142巻のローマの建国からアウグストゥスに至る歴史記述『ローマ建国史』を著した(現存するのは35巻)。
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…生没年不詳。リウィウスの大著《ローマ建国史》の〈抄録版〉の著者として知られるが,生涯および著述活動については不明な点が多く,姓名も個人名のLuciusと氏族名のAnnaeusは信憑性を欠く。ハドリアヌス帝の詩作仲間の一人としてその名が伝えられているフロルスや,断片しか現存しない対話編《ウェルギリウスは詩人か弁論家か》の著者Publius Annius Florusと同一人物と推定される。…
…以下では6期に分けてラテン文学の消長を歴史的にふりかえり,あわせてその影響と受容の一端にふれることにする。
[初期(前3~前2世紀)]
ラテン文学は口承文学を別にすれば,前3世紀,ローマがイタリア半島を征服したときに,南イタリアのギリシア都市出身のリウィウス・アンドロニクスLivius Andronicusが,ホメロスの《オデュッセイア》に基づく叙事詩《オデュッシア》を発表したときに始まる。これに,ナエウィウスの《ポエニ戦争》とエンニウスの《年代記》の叙事詩2編が続く。…
…それゆえいっそう,その混乱を終結させて元首政を樹立したアウグストゥスは秩序の再興者として称揚され,このアウグストゥス治下でローマ理念は最初の高揚期を迎えるのである。リウィウスは,ロムルスが神意によって建設した都市ローマが世界の女王となっていく過程を描き,ウェルギリウスは,最高神ユピテルがローマに領土の境も時の境もない永遠の支配を与えたと歌い,ホラティウスは,不幸からよみがえり,いっそうの高みへと昇るローマの運命をたたえた。そしてローマの支配は,平和や幸福や法を世界にもたらすものとして正当化される。…
※「リウィウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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