浄瑠璃の曲名。信濃屋お半と帯屋長右衛門の道行物。1763年(宝暦13)刊の正伝節道行集《春富士都錦》所収の《桂川恋の柵(しがらみ) 道行浮名に入物(いるもの)》が最も古い。以後の作品は構成・詞章において基本的にこの曲にならっている。73年(安永2)刊の《宮薗鸚鵡石(おうむせき)》所収《桂川恋の柵》も宝暦期の作と推定される。江戸では81年(天明1)4月市村座上演,初世桜田治助作の富本節《道行瀬川の仇浪》,96年(寛政8)1月都座上演,同じく治助作の常磐津節《帯文桂川水(おびのあやかつらのかわみず)》,1819年(文政2)1月中村座上演,2世治助作の清元節で舞台を江戸へ移した《道行思案余(しあんのほか)》などが主要なものである。いずれの曲も置(おき)の後道行となりふたりの述懐,心中決意から心中へと進む構成であるが,《帯文桂川水》《道行思案余》にはふたりの心中決意の後に挿話がある。前者の挿話には夜鷹,そば売,座頭が登場,粋なからみ合いとなるが,本筋とはなんらかかわりがなく,この部分を除くと《瀬川の仇浪》とほとんど同じ構成になる。後者の挿話には座頭が登場,ふたりにからむ構成になっている。《桂川恋の柵》《道行思案余》は現在も行われている。
→桂川連理柵
執筆者:安田 文吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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